第885章 後悔という文字の書き方

スーパースターは真っ先に自社のアーティストを迎えに来た。墨野宙のプライベートジェットは近くの町に停まっていた。

天野奈々はスーパースターの責任者として、ようやくアーティストの安全を確認し、夏目栞と加藤静流に無事に会えた。

「奈々、私たちは大丈夫よ。静流は薬を飲んで眠っているわ。今は彼氏が看病してくれているの」夏目栞は身なりを整え、部屋からロビーに出て天野奈々に伝えた。

天野奈々はソファに斜めに寄りかかり、夏目栞の方を向いて頷いた。「あなたたちが無事で安心したわ」

「実は来なくても良かったのに」夏目栞は感動しないわけにはいかなかった。どんな会社の社長が、このような田舎まで飛んできて、自社のアーティストの安否を直接確認するだろうか。

「あなたたちが無事だと分かれば帰るわ。そうそう、静流の彼氏って何?」権守夜以外に、加藤静流が新しい彼氏を作ったという話は聞いていなかった。

夏目栞が説明しようとした時、木下准も加藤静流の部屋から出てきた。

その高い背丈は墨野宙に匹敵するほどだったが、彼から漂う雰囲気は剛毅で不屈なもので、墨野宙の危険な雰囲気とは異なるものだった。

墨野宙はどこに立っていても帝王のようだった。

しかしこの男は……

「静流が目覚めたら、連れて行く」木下准は直接天野奈々に言った。

「あなたは……」天野奈々は驚いた。加藤静流はいつこんな魅力的な人物と知り合ったのだろう。

「木下准だ」この四文字を言い終えると、木下准は部屋に戻った。彼らと話す気はなかった。時間が限られているのだから。

天野奈々は夏目栞を見つめ、夏目栞は肩をすくめながら、山で起きた出来事、加藤静流が全員に見捨てられた事を天野奈々に話した。

天野奈々は話を聞き終えると、その瞳に宿る光は先ほどの木下准と同じものだった。

「なるほど……」

夏目栞はその眼差しに背筋が寒くなり、急いで話題を変えた。「墨野社長は?一緒に来なかったの?」

「仕事の処理をしているわ」天野奈々は答え、その後夏目栞に注意した。「荷物をまとめて。今夜のうちに東京に戻りましょう」