第936章 これは火に油を注ぐようなものか?

まもなく、新しい年の日本アカデミー賞授賞式が開催され、その時期は数日後に迫っていた。

有馬夏菜は有力候補として、娘探しの悲情劇を演じたものの、日本アカデミー賞での優位性をそれほど得られなかった。結局のところ、知名度で言えば、彼女がどれだけ頑張っても天野奈々には及ばないのだから。

しかし、受賞できなくても、候補者として日本アカデミー賞の授賞式に出席しなければならない。この点において、彼女は天野奈々のように気まま気ままにはできなかった。

世間では、天野奈々は日本アカデミー賞に参加しないだろうと推測していた。なぜなら、彼女は俳優業に復帰する気がないことを明言していたからだ。

しかし、海輝が『生存者』を出品し、日本アカデミー賞で複数部門にノミネートされたのだ。

そのため、墨野宙は密かに加藤静流を呼び出し、用件を伝えた。

「墨野社長、何かご用でしょうか?」加藤静流は本当に不思議に思った。通常なら、墨野宙の周りには優秀な部下が大勢いて、どんな事態が起きても彼女に頼ることはないはずなのに、なぜ今日は?

墨野宙は手にしていたペンを置き、資料を押しやって、加藤静流を見上げた。『アリの女王』の主要な撮影は半分以上終わっており、墨野宙も海輝での仕事を合理的に調整できるようになっていた。

「知っての通り、今回の日本アカデミー賞に奈々は絶対に出席しないだろう。そして君は今でも奈々のアシスタントだ。だから、日本アカデミー賞では君に代理で受賞してもらいたい。これは正当で合理的なことだ。」

「私が?」加藤静流は墨野宙の指示に困惑を感じた。

「君はこういう場が好きだと思っていたが。」墨野宙は意味深な口調で加藤静流に言った。「忘れないでくれ、有馬夏菜も候補者の一人だということを。」

加藤静流は突然、墨野宙の意図を理解した。以前、有馬夏菜が彼女を利用して同情を買おうとした時も、彼女は反応を示さなかった。今回、有馬夏菜は日本アカデミー賞に大きな期待を寄せているのに、自分の娘が他人の代理として賞を受け取るのを見ることになる。そんな気分は、さぞかし不愉快だろう。

「ありがとうございます、墨野社長。確かに私は大好きです。」