高橋家は確かに金持ちだ

濃い煙が立ち込め、床も見えなかった。

皆が外へ逃げ出していた。

山本正博が火を恐れなければ、きっと逃げ出せたはずだ。でも彼には火に対する生来の恐怖があり、一度火事になると、逃げ出すのは難しかった。

池村琴子は近くのテーブルクロスを掴むと、水槽に浸して体に巻き付け、階段を駆け上がった。

見慣れた濃煙の匂いを嗅ぎて、山本正博はドアの前で立ち尽くしたままだった。

彼の足は床に釘付けになったかのように、ぼんやりと大きな影が駆け込んでくるのを見た。

その人は焦りながら彼の頭を引き張れた。

「正博、正博…」

その人は彼を引っ張れて外へ向かった。

山本正博は目を閉じ、かすれた声で名前を呼んだ。

琴子は体が震えた。

彼女の予想通り、山本正博は火を見ると動けなくなる、これが彼の持病だった。