濃い煙が立ち込め、床も見えなかった。
皆が外へ逃げ出していた。
山本正博が火を恐れなければ、きっと逃げ出せたはずだ。でも彼には火に対する生来の恐怖があり、一度火事になると、逃げ出すのは難しかった。
池村琴子は近くのテーブルクロスを掴むと、水槽に浸して体に巻き付け、階段を駆け上がった。
…
見慣れた濃煙の匂いを嗅ぎて、山本正博はドアの前で立ち尽くしたままだった。
彼の足は床に釘付けになったかのように、ぼんやりと大きな影が駆け込んでくるのを見た。
その人は焦りながら彼の頭を引き張れた。
「正博、正博…」
その人は彼を引っ張れて外へ向かった。
山本正博は目を閉じ、かすれた声で名前を呼んだ。
琴子は体が震えた。
彼女の予想通り、山本正博は火を見ると動けなくなる、これが彼の持病だった。