高木朝子は車の中に座り、後退していく木々や車の流れを見つめながら、目から涙が溢れ出した。
「正博兄さん…」
彼女は置き去りにされた。
なぜか、高橋謙一が現れてから、物事が奇妙な方向に進んでいるように感じていた。
池村琴子のお祖母さんが亡くなったことは確かに彼女を刺激し、自ら身を引くことになったが、正博兄さんは変わってしまい、池村琴子を気遣うようになった。
このままではいけない、このまま進展させるわけにはいかない。
彼女は電話をかけた。
「小雨、彼女を恥をかかせるように言ったはずなのに、なぜ彼女は意気揚々と出てきたの?」
相手は一瞬沈黙した後、怒りを含んだ声で返した。「よく言うわね。なぜ彼女が私のいとこと仲が良いって言わなかったの?今日恥をかきそうになったのは私だったのよ?」
「どういうこと…」
高橋小雨は今日起こったことを一部始終話した。
高橋謙一、またしても高橋謙一!
朝子は激怒した。
もともと池村琴子が行った前に、彼女は高橋小雨を買収して池村に恥をかかせ、たとえ池村は正博兄さんと一緒にいても、正博兄さんの面目を潰すつもりだった。
しかし思いがけずに、これが逆に池村に大きな得をさせてしまった!
「小雨、大丈夫だった?池村がこんなに卑劣な手段を使うなんて思わなかった。高橋謙一まで彼女に心を奪われるなんて。彼女と高橋謙一の関係は本当に知らなかったの。今季のシャネルの最新コレクションが入荷したから、明日送らせるわ。今回は確かに私の落ち度だった」朝子は急いで弱みを見せて許しを請うた。
高橋小雨は疑うことなく答えた。「私たちは長年の友達だもの、信じているわ。でも安心して、忠一兄さんは私の味方よ。彼が解決すると言ってくれたわ」
高橋忠一?
朝子は口角を上げた。
「高橋忠一がそんなにあなたを守ってくれるなんて思わなかった」
「私は彼のいとこだもの。池村琴子なんて、バックグラウンドもない部外者じゃない。誰が重要で誰がそうでないか、忠一兄さんはよくわかってるわ」
この言葉を聞いて、高木朝子はようやく安心した。