お願い、彼を放してあげて!

高木朝子は車の中に座り、後退していく木々や車の流れを見つめながら、目から涙が溢れ出した。

「正博兄さん…」

彼女は置き去りにされた。

なぜか、高橋謙一が現れてから、物事が奇妙な方向に進んでいるように感じていた。

池村琴子のお祖母さんが亡くなったことは確かに彼女を刺激し、自ら身を引くことになったが、正博兄さんは変わってしまい、池村琴子を気遣うようになった。

このままではいけない、このまま進展させるわけにはいかない。

彼女は電話をかけた。

「小雨、彼女を恥をかかせるように言ったはずなのに、なぜ彼女は意気揚々と出てきたの?」

相手は一瞬沈黙した後、怒りを含んだ声で返した。「よく言うわね。なぜ彼女が私のいとこと仲が良いって言わなかったの?今日恥をかきそうになったのは私だったのよ?」