ついに説得できた!
高木朝子の心の中にあった僅かな同情も消え去り、全てが喜びに変わった。
しかし、この言葉は吉田蘭の耳には不快に響いた。
「正広、あなたと朝子は婚約も済んでいるし、結婚は既に決まった事なのに、考えるとはどういうことなの?」
高木朝子は口を開く勇気がなかった。
彼女は忘れていた。吉田蘭が山本正博を山本正広と勘違いしていることを。
山本正博が怒って考え直さないように、高木朝子は親しげに吉田蘭の腕を取った。「伯母さん、正広兄さんはやっと一命を取り留めたばかりです。少し休ませてあげましょう。結婚式は急ぐことはありません。」
「正広兄」という言葉を言う時、高木朝子は明らかに躊躇し、全身が不自然になった。
彼女は山本正博と目を合わせる勇気がなかった。