今回、あなたに感謝しない

高木朝子だ!

琴子は目を細めて、高木朝子がここに来るとは思わなかった。

「勝雄、彼女に手を付けてないで!早く開けなさい!」

高木朝子の話を聞いて、琴子は意味深に唇を歪めた。

これは一体どう言うことだろう。

まさか本当に自分を助けに来たというわけではないだろう?

田中勝雄も、高木朝子が池村琴子を放させるためにここに来たとは思わなかった。

彼はドアの近くに立っている仲間に目配せをし、その男は何も言わずにドアを開けた。

高木朝子は息を切らしながら中に駆け込み、池村琴子が無事なのを見て、心の中は複雑で、落胆なのか安堵なのか言い表せなかった。

「お嬢さん、なぜここに来るの?」田中勝雄の声は柔らかく、目の周りの恐ろしい傷跡さえも、そこまで恐ろしく見えなくなった。

高木朝子は悩ましげに池村琴子を見た。

以前なら、池村琴子が苦しむのを喜んで見ていただろうが、今は正博兄さんが条件を出したのだ。

池村琴子が無事に帰れば、正博兄さんは離婚すると約束した。

だからこそ、絶対に池村琴子を無事に帰さなければならない。

「彼女を放して、父の方に私から話します」

高木朝子の言葉に田中勝雄は躊躇させた。

彼は覚えていたのは朝子さんがこの池村琴子が嫌いだことだ。

「お嬢さん…」

「私の言うことも聞かないの?」

高木朝子は苛立たしげに彼の言葉を遮った。

彼女は田中勝雄の手からナイフを奪い、池村琴子に向かって歩き、一本一本縄を切っていった。

最後の一本を切る時、少し躊躇したが、最後は歯を食いしばって切った。

「行きましょ」

高木朝子は彼女を押した。

池村琴子は唇を噛み、目を細めて彼女を見た「あなたが悪事に加担すると思っていたけど」

高木朝子が助けてくれたとはいえ、彼女の父親を助けることにもなるのだ。

「あなたのお父さんは犯罪を犯しているのよ」

しかし高木朝子は動じることなく、甘く笑った。「そうね、犯罪よ。警察に通報すればいいわ」