高橋謙一は池村琴子を見つけられず、電話も通じなかったため、車で戻りました。
帰り道で、ある電話を受けた。
着信を見ると、なんと山本正博からだった。
高橋謙一は眉を上げ、迷わず電話に出た。
「珍しいですね、山本坊ちゃん。まさか僕に電話がくるとは」
長年に渡って、山本正博から連絡が来ることは数えるほどしかなかった。
山本正博は冗談を言い合う気分ではなく、冷たい声で言った。「琴子が危険な目に遭っている」
「何だって?!」
高橋謙一はブレーキを踏み、素早く車を路肩に停めた。
「どういうことだ、彼女はどうしたんだ?」
高橋謙一のこの焦った様子に、山本正博は唇を固く結んだが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。
アシスタントが琴子の行方を突き止めた。やはり高木財源に連れて行かれていた。
他の誰かが琴子を連れて行ったのなら心配はないが、高木財源は何をするか分からない狂った男だ。高木朝子が止めに行ったとはいえ、まだ不安だった。
そこで頭に浮かんだのが高橋謙一だった。
まさか自分の妻の「愛人」に頼ることになるとは。
山本正博は嘲るように口角を歪め、氷のような声で言った。「彼女は高木財源に連れて行かれた。俺は病院にいて、医者に外出を禁止されている。他の者は信用できない。この件は君に任せるしかない」
「頼む。僕の代わりに彼女を守ってくれ」
この厳かな言葉を聞いて、高橋謙一は怒りが込み上げてきた。
任せる?琴子を守れ?
一体誰が彼女の夫なんだ?
「山本正博、お前の頭がおかしいんじゃないのか?何の権利があって彼女を俺に任せるんだ?俺が彼女の何なんだ?お前が彼女の何なんだ?」
「いったい誰が彼女の夫なんだ?」
高橋謙一は怒り心頭で、人を読んで高木財源の居場所を探すよう指示しながら、山本正博を罵倒した。
「お前は今死にそうな重病で動かないのか?山本正博、お前の足が折れてても這ってでも彼女を助けに行くべきだろう」
相手の返事を待たずに、高橋謙一は怒って電話を切った。