彼を見に行きたい

電話に出たのは高橋謙一ではなかった。

彼女は慌てて尋ねた。「どうしたんですか？」

「交通事故に遭いました。他のご家族にも連絡してください」

「ドーン」という音とともに、池村琴子はその場に凍りついた。相手が電話を切ったことにも気付かないほどだった。

高橋謙一がどうして事故に？

あんなに運転が上手なのに。

琴子は数秒間呆然とした後、さっきの二人の女が来た方向へ走り出した。

山本正博は彼女を引き止めて、低い声で尋ねた。「どこへ行くんだ？」

琴子は全身が冷え切って、弱々しく焦った声で言った。「高橋謙一が事故に遭ったんです。様子を見に行かないと」

彼女が足を引きずりながら去っていく姿を見て、山本正博はその背中を冷たい眼差しで見つめた。

車の中のアシスタントが顔を出して、ため息をついた。