自分を責める必要はない

「敬一、落ち着いて!」高橋忠一は慌てて彼を引き止めた。「これは事故だ。誰も望んでいなかったことだ」

もう一つの手が重なり、高橋敬一の手を掴んで強引に引き離した。

山本正博だった。

彼は冷たい表情で、池村琴子を自分の後ろに庇い、眉をひそめ、端正な顔を曇らせて言った。「謙一の事故は彼女とは関係ない。彼女はその時彼の車に乗っていなかった」

高橋敬一は冷ややかに鼻を鳴らし、池村琴子を睨みつけると、急いで救急室の前へ向かった。

高橋忠一は山本正博を見て申し訳なさそうに言った。「すみません。弟の性格が荒っぽくて」

山本正博は軽く頷き、振り返って池村琴子を見た。

彼女は目が真っ赤になるまで泣いていた。

以前、祖母が亡くなった時は高木朝子を恨むことができたが、今回の高橋謙一の事故では、自分を責めることしかできなかった。

「もう泣かないで」山本正博の声は柔らかくなった。

彼女が他の男のために泣いているというのに、彼女が苦しむのを見るのが辛かった。

「泣きたくないのに...」琴子は涙を拭った。どうしても涙が止まらなかった。

山本正博はため息をつき、手を上げかけた。

琴子は反射的に避け、気まずさを紛らわすために、救急室の方にを見た。

山本正博は薄い唇を固く結んだ。

どれくらい時間が経ったか分からないが、ようやく高橋謙一が運び出されてきた。

医師はマスクを外し、外で待つ高橋忠一に言った「患者はまだ意識不明で、危険な状態は脱していません。これからの状態は良くなる可能性もありますし、悪化する可能性もあります。心の準備をしておいてください」

高橋忠一は深刻な表情で、金縁眼鏡の下の顔は疲れが見えた。「先生、ありがとうございます」

山本正博は近寄り、調べた情報を伝えた。「大型トラックは偽造ナンバーを使用していて、人を轢いた後逃走しました」

この言葉を聞いて、冷静さを取り戻した高橋敬一の顔に冷たさが広がり、高橋忠一も表情を曇らせた。

「ありがとう」高橋忠一は彼を深く見つめた。