俺の良いところは何だ

山本正博はこの話題を続けず、麺を箸で持ち上げて一口食べて、その動作はいつものように優雅だった。

唐辛子を加えた麺は確かに違っていた。熱気が立ち上り、彼の目が少し潤んでしまった。

麺を食べ終わると、池村琴子は自ら茶を差し出した。

山本正博はそれを受け取り、本当にゆっくりと茶を味わい始めた。

10分後…

琴子は時間を確認した。この時間なら区役所の職員は出勤しているはずだ。動かない山本正博を見ながら、もう少し遅くなると区役所の職員が帰ってしまうと注意すべきか迷っていた。

山本正博は彼女が落ち着かない様子を見て、意味深な笑みを浮かべた。

そのとき、彼女の携帯電話が鳴った。

高橋謙一からだと分かり、彼女は躊躇なく電話を切った。

高橋家族と距離を置くことを決めたのだから、これからは連絡を取らない方がいい。

電話を切れば高橋謙一も諦めるだろうと思ったが、今回は意地になったかのように、何度も何度も掛けてきた。

山本正博は彼女の携帯電話を冷ややかに一瞥した。

携帯電話はテーブルの上にあり、着信相手も見えていた。

自分との離婚後、彼女が高橋謙一と結婚するかもしれないと考えると、気持ちが沈んでいった。

浮気をしたのは彼女なのに、自分には彼女を責める資格がない。

「なぜ出ないんだ?」

その言葉には意地悪な響きがあった。

山本正博の探るような視線の中で、彼女は通話ボタンを押した。

高橋謙一の興奮した声が聞こえてきた。「どこにいる?」

声には涙声が混じり、一言一言が震えていて、久しぶりの興奮が伝わってきた。

彼に何があったのかは分からないし、関心もなかった。ただ淡々と答えた。「昨夜、私の言いたいことは全て話したはずです。」

「分かってる、分かってる。でも今は状況が違うんだ。琴子、君に伝えたい良い知らせがあるんだ。電話では説明しきれない。今どこにいるか教えてくれれば、迎えに行って直接話すよ。」

高橋謙一は矢継ぎ早に話した。