このまま放っておいたら、山本社長が目を覚ました時に責められるのではないか?
秘書がもう少し言おうとしたが、高木朝子は苛立たしげに彼を外に押し出し、「バン」と音を立てて扉を閉めた。
彼は茫然と階段を下りながら、ふと一人の人物を思い出した。
秘書から電話を受けた時、池村琴子はデザインの練習を終えたところで、水を飲もうとしていた……
「池村さん、山本社長を助けてください。彼が強姦されそうなんです。」
「ぷっ!」池村琴子は口に含んだ水を吹き出してしまった。
なんとも衝撃的なニュースだ!
「誰に?男?女?どのくらい続いてるの?」
秘書は咳払いをして:「まだそこまでは……」
「じゃあ早く警察に通報すればいいじゃない。なんで私に電話してるの。」
「えっと……山本坊ちゃんを襲ったのは他でもない、高木さんなんです……山本坊ちゃんは酔っ払って意識がない状態で、このままだと高木さんに手を出されてしまいます。」
高木朝子の名前を聞いた途端、池村琴子の表情が凍りついた。
「池村さん、山本坊ちゃんは……山本坊ちゃんは絶対にこんなことを望んでいません……お願いです、助けてあげてください。」
山本正博の秘書の懇願を聞いて、池村琴子は笑いそうになった。
高木朝子は山本正博と仲が良かったはずなのに、なぜこんな手段を?
彼女は以前、山本正博との初めての時のことを思い出した。あれも偶然が重なった結果で、翌朝、彼はとても怒っていた。
あれが彼女が初めて山本正博の怒りを見た時だった。
秘書の言う通り、山本正博は確かに人に計算されるのが嫌いだ。
でも……
「私に何の関係があるの?」池村琴子は手のペンを弄びながら、意地悪く笑った。「私たちはもう離婚したわ。彼が誰とそういうことをしようと関係ないでしょう。」
以前山本家にいた時、山本正博が酔っ払うことは少なかったが、酔うと深く眠り、誰も起こせなかった。
高木朝子が本気なら、きっと成功してしまうだろう。
そうなれば、翌日待っているのは間違いなく山本正博の怒りだ。
「もちろん関係あります。池村さん、山本坊ちゃんは以前、もし何か危険な事があったら真っ先にあなたに電話するように言っていました。誰も信用できない、あなただけを信じると。」
秘書の切実な言葉に、池村琴子の心が微かに揺れた。
彼女だけを信じる?