「ええ」池村琴子は冷静に頷いた。「ドアが開いていたから、申し訳ないけど、全部聞こえちゃった」
彼女がこんなにも率直に認めるとは思わず、今度は吉田愛琴が困惑した。
吉田愛琴は電話を置き、急いで彼女の手を掴もうとしたが、池村琴子にかわされた。
池村琴子が携帯を手に取って背を向けると、吉田愛琴は慌てて呼び止めた。「琴子、ごめんなさい」
池村琴子は立ち止まった。
吉田愛琴は彼女の後ろで居心地悪そうに立ち、もごもごと言った。「わかるでしょう、このようなコンテストに参加することは私たちデザイナー全員の夢なの。どうしても参加したくて、あなたの枠を使わせてもらったの。この数年間面倒を見てきた私のことを考えて...許してくれない?」
池村琴子は唇の端を少し上げ、目すら上げる気にもならなかった。「あなたが言ったように、デザイナー全員の夢だったわ。私の夢を奪っておいて、何を許せというの?」