第166章 大義滅親

高木阿波子は確かに故意だった。

どうせ高木朝子は高木家に何の利益ももたらさないし、今回は高橋家との関係を良好にするために来たのだから、この鼠の糞一つで台無しにはできない。

「妹、何も分からないくせに口を出さないで。みんなに私たちの家族が育ちが悪いと思われるわよ」高木朝子は歯を食いしばって一言一言吐き出した。

その時になってようやく皆が高木阿波子に気付いた。先ほど高木財源が入ってきた時は、皆の注目が高木朝子に集中していて、高木財源が誰かを連れてきていたことに気付かなかったのだ。

高木朝子が妹と呼んでいたということは、この子が高木財源の私生児、高木阿波子なのか？

高木阿波子については噂を聞いていた。高木朝子と加藤澤年のネット上の騒動が大きな話題になったが、最後には高木財源の私生児が尻拭いをすることになったとか。

こんな明らかな後始末役に、皆は高木阿波子に同情を禁じ得なかった。

「実は皆さん、あなたが言い逃れをしているのは分かっているんです。ただ証拠がないから、法の境界線で踊れているだけ。でも、うちの家にはこんな前例を作れません」そう言って彼女は高木財源の方を向いて言った。「お父さん、私たちの態度を示さないと」

高木阿波子は露骨に注意を促した。

彼女にそう言われて、高木財源も我に返った。立場を明確にしなければならない時が来たのだ。

高木朝子の言い逃れは構わないが、もし彼が態度を示さなければ、後で事実が発覚した時、高橋家が高木家に怒りを向けるかもしれない。

先ほどの高橋進の冷たい「金に困っているわけではない」という言葉を思い出し、高木財源は身震いした。

確かに高木家も光町では地位があるが、高橋家と比べれば取るに足らない。高橋進が怒って高木グループを潰そうと思えば、それこそ一瞬の出来事だろう。

高橋進は感情面では混乱しているかもしれないが、ビジネスと政治においては誰よりも冷静で手腕がある。でなければ、高橋家のビジネス帝国をここまで拡大できなかっただろう。

高木財源は目を細めて高木朝子を見つめた。長年育ててきたこの娘を、残念ながら見捨てるしかない。