「今、聞いたんだけど、お義母さんがもうダメみたい……」
その言葉を聞いて、池村琴子の心臓が「ドキッ」と鳴り、深い谷底に沈んでいくような気がした。
覚悟はしていたものの、現実に直面した瞬間、どうすればいいのか分からなくなった。
「今すぐ行きます」
琴子は急いで軽めの黒い服に着替えて外に向かった。
南條夜の母が丁度ドアの外で待っていて、琴子が振り返りもせずに去っていくのを見て眉をひそめ、南條夜に言った。「離婚したのに前の家族のことを気にかけて、お腹の中には他人の子供がいるなんて。この女はあなたのことなんて全然考えていないわ」
「そもそも考えたことなんてありませんから」南條夜は笑みを浮かべ、冷たい目つきで言った。「ずっと私の一方的な想いでした」
その言葉を聞いて、南條夜の母は息を飲み、顔をしかめた。「一方的な想い?あなたがこんな女に一方的な想いを?」
「光町に来てたった数日でこんなに彼女に夢中になるなんて?」この息子は今まで一度も彼女を作ったことがなく、女性に興味がないのではないかと疑っていた。
高橋仙のことを好きになったと知った時、彼女は嫌がるどころか喜んでいた。離婚歴があっても、彼女は封建的な人間ではなく、家族の結びつきは利益が重要だと考えていた。
しかし後に琴子が妊娠していて、複数の男性と関係があることが発覚し、これは彼女の許容範囲を超えていた。
南條家は、他人の子供を育てるようなことは絶対に許さない。
南條夜は黙ったまま、目を伏せ、説明しようとはしなかった。
……
ホテルの外で、山本正博がマイバッハで地下駐車場から出てきた時、ちょうど琴子も外に出てきたところだった。
車は琴子の前で止まり、窓が下がると山本正博のハンサムな顔が見えた。
「乗って」
琴子は躊躇することなく、ドアを開けて乗り込んだ。
「お母さんはどう?」琴子は焦りながら、心臓が「ドキドキ」と鳴っていた。
その時、山本正博の携帯が鳴り、彼はすぐにスピーカーフォンにした。
「正博……」
弱々しい声、吉田蘭だった!
琴子は目を見開いた。
「母さん、慌てないで。今向かってます」
いつも冷静な山本正博の声が震えていた。
「琴子は…そばに…いる?」
吉田蘭の声は途切れ途切れだったが、はっきりと発音していて、明らかに必死に耐えているようだった。