第182章 約束する

「今、聞いたんだけど、お義母さんがもうダメみたい……」

その言葉を聞いて、池村琴子の心臓が「ドキッ」と鳴り、深い谷底に沈んでいくような気がした。

覚悟はしていたものの、現実に直面した瞬間、どうすればいいのか分からなくなった。

「今すぐ行きます」

琴子は急いで軽めの黒い服に着替えて外に向かった。

南條夜の母が丁度ドアの外で待っていて、琴子が振り返りもせずに去っていくのを見て眉をひそめ、南條夜に言った。「離婚したのに前の家族のことを気にかけて、お腹の中には他人の子供がいるなんて。この女はあなたのことなんて全然考えていないわ」

「そもそも考えたことなんてありませんから」南條夜は笑みを浮かべ、冷たい目つきで言った。「ずっと私の一方的な想いでした」

その言葉を聞いて、南條夜の母は息を飲み、顔をしかめた。「一方的な想い?あなたがこんな女に一方的な想いを?」

「光町に来てたった数日でこんなに彼女に夢中になるなんて?」この息子は今まで一度も彼女を作ったことがなく、女性に興味がないのではないかと疑っていた。

高橋仙のことを好きになったと知った時、彼女は嫌がるどころか喜んでいた。離婚歴があっても、彼女は封建的な人間ではなく、家族の結びつきは利益が重要だと考えていた。

しかし後に琴子が妊娠していて、複数の男性と関係があることが発覚し、これは彼女の許容範囲を超えていた。

南條家は、他人の子供を育てるようなことは絶対に許さない。

南條夜は黙ったまま、目を伏せ、説明しようとはしなかった。

……

ホテルの外で、山本正博がマイバッハで地下駐車場から出てきた時、ちょうど琴子も外に出てきたところだった。

車は琴子の前で止まり、窓が下がると山本正博のハンサムな顔が見えた。

「乗って」

琴子は躊躇することなく、ドアを開けて乗り込んだ。

「お母さんはどう?」琴子は焦りながら、心臓が「ドキドキ」と鳴っていた。

その時、山本正博の携帯が鳴り、彼はすぐにスピーカーフォンにした。

「正博……」

弱々しい声、吉田蘭だった!

琴子は目を見開いた。

「母さん、慌てないで。今向かってます」

いつも冷静な山本正博の声が震えていた。

「琴子は…そばに…いる?」

吉田蘭の声は途切れ途切れだったが、はっきりと発音していて、明らかに必死に耐えているようだった。