近籐正明は来た人を見ると、眼鏡をかけた若い男性だった。
「LINEを交換してもいいですか?」若い男性は恥ずかしそうにスマートフォンを差し出したが、近籐正明にはたき落とされた。
横を見ると、横山紫はすでにその黒い車で去っており、影も形もなかった。
近籐正明の表情は一気に崩れた。
眼鏡の男性がスマートフォンを拾い上げた瞬間、目の前の美女から「消えろ」と怒鳴られた。
澄んだ声は、心地よいバリトンだった……
「あ、あなた……」
眼鏡の男性は大きなショックを受け、口を大きく開けたままだった。
なんてこった、この「美女」は男の娘だったのか!
近籐正明は目の前の男性が動揺しているのを見て、深いため息をつき、青ざめた顔で立ち去った。
高橋グループ本社ビル、社長室。
高橋進は目の前の書類の束を見ながら、頭痛に悩まされ額を押さえていた。