山本正博は後ろを振り返ると、池村琴子は首を傾げ、深い眠りに落ちていた。
もう一度見ると、彼女の白く繊細な手が腹部を強く押さえており、まるで大切なものを守ろうとしているかのようだった。
彼女のその様子を見て、山本正博の心は深く沈んだ。
鈴木哲寧がドアを閉めようとした瞬間、彼はドアを止め、長い脚を踏み入れて車に乗り込んだ。
「病院へ」
ドアが「バン」と音を立てて閉まった。
鈴木哲寧は急いで最寄りの病院へ向かった。
「マスクをつけませんか?」鈴木哲寧はバックミラーから山本正博を見て、注意を促した。
山本正博は眉をしかめ、何かを思い出したように、最後にはマスクをつけた。
すぐに病院に到着し、池村琴子が救急室から出てきたのは深夜になってからだった。
高橋家の人々が全員駆けつけていた。山本正博は影の中に立って暫く見ていたが、そして立ち去った。
池村琴子が目を覚ましたのは翌日のことだった。
彼女は部屋中を見渡したが、最も見たかった人の姿はなかった。
「目が覚めた?何か食べたいものある?」鈴木羽は目が赤く、明らかに泣いていた形跡があった。「小豆粥を作ったんだけど、少し食べる?」
そんな彼女を見て、池村琴子の鼻が痛くなった。
「うん、食べる」彼女は素直に粥を全部食べ、鈴木羽のこめかみの白髪を見て、少し恍惚とした。
誰が自分を連れてきたのか尋ねることもなく、他の人も説明しなかった。
「南條夜とお母さんが来てたわ」鈴木羽は彼女をそっと見て、躊躇いながら言った。「あなたが寝てる時だったから、帰ってもらったの」
「お母さんはあなたのことを気に入ってて、山本正博さんが亡くなった以上、早く前を向いた方がいいって。南條夜は明日東京に帰るの...お母さんが言うには、あなたが良ければ、一緒に気分転換に行ってみたらって」
まだ言い出せていない言葉もあった。
南條夜のお母さんは彼女を南條家の人々に会わせたがっていた。
鈴木羽の言葉から、池村琴子はその真意を察した。
新しい人生を始める時が来たのだ。
彼女は唇を曲げて微笑み、まるで温室の花が突然咲き誇ったかのように、息を呑むほど美しかった。
「お母さん、南條夜のことは好き?」