山本正博は後ろを振り返ると、池村琴子は首を傾げ、深い眠りに落ちていた。
もう一度見ると、彼女の白く繊細な手が腹部を強く押さえており、まるで大切なものを守ろうとしているかのようだった。
彼女のその様子を見て、山本正博の心は深く沈んだ。
鈴木哲寧がドアを閉めようとした瞬間、彼はドアを止め、長い脚を踏み入れて車に乗り込んだ。
「病院へ」
ドアが「バン」と音を立てて閉まった。
鈴木哲寧は急いで最寄りの病院へ向かった。
「マスクをつけませんか?」鈴木哲寧はバックミラーから山本正博を見て、注意を促した。
山本正博は眉をしかめ、何かを思い出したように、最後にはマスクをつけた。
すぐに病院に到着し、池村琴子が救急室から出てきたのは深夜になってからだった。
高橋家の人々が全員駆けつけていた。山本正博は影の中に立って暫く見ていたが、そして立ち去った。