ぼろぼろの部屋で、ベッドだけが清潔で、他の隅々にはゴミが山積みになっており、悪臭を放っていた。
鼻を突く臭いが鼻腔に入り込み、池村琴子は眉をひどく顰め、胃の中が激しくかき回され、急いでゴミ箱の横に行って激しく吐き出した。
誘拐されるのはこれが初めてではない。
前回とは違い、今回の相手は彼女に対して比較的敬意を示し、縄は使わなかった。
彼女はドアの側に行って引っ張ってみたが、案の定、鍵がかかっていた。
ドアの外からまばらな足音が聞こえてきた。
鍵が「カチッ」と音を立てて開き、ドアの隙間から、山本正広のあの柔和な顔が遠くから近づいてきた。
「申し訳ありません、高橋さん。急を要する事態だったため、このような方法であなたをお招きしました。」
彼の平淡な声には柔和な冷静さが漂い、整った眉の下には、山本正博と八割方似た顔立ちがあった。