いいえ……
彼女はあらゆる動画を探し、当時の場面を思い出してみたが、彼の姿は見つからなかった。
確かに鈴木哲寧と一緒にいるのを目撃したはずなのに、現場でも動画でも、その人物を見つけることはできなかった。
まるで幻のように、一瞬にして消え去ってしまった人物だった。
彼女はベッドに横たわり、一晩中眠れなかった。
未明、鈴木家のリビングは明るく照らされていた。
鈴木母さんはリビングを行ったり来たりし、不安と焦りに駆られていた。
鈴木雅夫はソファに座り、顔色は土気色で、何個もグラスを投げ捨てていた。
「あなたの育てた息子はなんてことを!」
昨夜早く寝たのに、真夜中に警察から電話があり、哲寧が男性30人を呼び出し、売春取締りの警察に現行犯で逮捕されたと言われた。
「女遊びならまだしも、男と遊ぶなんて、しかも一度に30人も!」このニュースを聞いた鈴木雅夫は、その場で倒れそうなほど激怒した。
警察からの電話だけでなく、昔からの友人たちからも心配の電話が相次ぎ、完全に面目を失った。
鈴木雅夫は土気色の顔で妻を見つめた。「山口家からは何か言ってきたか?」
この結婚は財界の縁談とはいえ、念は山口祖母さんに可愛がられていた。婚約したばかりでこんな事が起きては、山口家が黙っているはずがない。
鈴木母さんは苦々しい表情を浮かべた。「山口祖母さんは昨夜メッセージをくれて、婚約は破棄、こんな孫婿は受け入れられないと言っていました。」
空気が重くなった。
結局事態は最悪になった。鈴木雅夫は怒りに満ちていた。
お年寄りまでこの件を知っているとは、これでもトレンド入りを抑えた状態なのに。
「昨日ちょうど社会的な話題がトレンド入りしていて、お金を使ってそれと入れ替えたけど、哲寧の件は結局広まってしまったわ。」鈴木哲寧の母も怒りが収まらない様子で、以前この息子が安藤静と関係を持っていたことを思い出し、どうして今は男女両方と関係を持つようになったのかと思った。
男遊びをするくらいなら、安藤静と一緒にいた方がましだった。
安藤静のことを思い出し、鈴木母さんはふと思いついた。「私にいい考えがあります。」
「今一番重要なのは哲寧の評判です。会社の後継者として、評判は絶対に潰せません。女性が一人でも彼のために弁明してくれれば、この件はまだ挽回できます。」