南條夜は来客を見た。スーツを着た男で、亜麻色の少し長めの髪をしており、マスクをつけていたものの、その雰囲気は目立っていた。
「木村勝一?」
最近東京で最も話題を集めているのは、この亜麻色の髪の男だった。木村家によって驚くべき地位まで引き上げられたという。
「仙は私の婚約者だ。木村さん、彼女とダンスをしたいなら、私たちのダンスが終わるまで待ってはどうだろう?」南條夜は笑みを浮かべながら、極めて低い声で、しかし警告めいた口調で言った。ダンスをするなら、まず自分からだと。
木村勝一は彼を見向きもせず、赤みを帯びた唇を少し上げ、意味深な様子で言った。「彼女があなたの婚約者だとしても、結婚後は毎日でもダンスができる。今この時に急ぐ必要はない。それに、まだ正式な婚約もしていないのだから、どの男性にもチャンスはあるはずだ。」
彼は池村琴子の方を見て、軽薄な口調で言った。「そうですよね、高橋さん。」
その口調と語調は、まるで結婚していない以上、他の男性にもチャンスがあると言わんばかりだった。
彼女と南條夜はまだ正式な婚約をしていなかったが、東京中、いや日本中が南條家と高橋家の縁組みを認めていた。それなのに、この木村勝一はその隙を突いてきた。
池村琴子は差し出された彼の手を見て、唇の端を少し上げた。「木村さんは私とダンスがしたいのですか?」
木村勝一は頷いた。「高橋さん、前回お助けした縁で、偶然再会した今、もう一度ダンスにお誘いしたいと思いまして。」
偶然?そんなに都合の良い偶然があるものか。
彼女は覚えていた。この木村さんは山本正博のために憤慨していたのだ。
「せっかくいらしたのですから、木村さんのご要望にお応えしましょう。ただし、一つ条件があります。」彼女は美しい瞳を上げ、突然笑顔を見せた。その瞳は薄暗い照明の下で星のように輝いていた。「今日のパーティーは仮面舞踏会ではありません。木村さん、マスクを外していただけませんか?」
木村勝一は黙り込み、マスクの下の瞳が深く沈んだ。
「以前事故に遭い、顔に傷を負ったものでして。」
事故で顔に傷を負ったと聞いて、池村琴子の心臓が少し跳ねた。
「高橋さんがご覧になりたいのなら……」彼がマスクに手をかけ、外そうとした瞬間、池村琴子は慌てて言った。「結構です。」