第297章 彼を好きになる

「飲みなさいよ。どうせ酔っ払っても誰も見向きもしないわ」山口念は自分にワインを注ぎ、一気に飲み干した。

彼女の言葉に刺激され、南條夜の頭は少し冴えてきた。

そのとき、山本正博と池村琴子が同時に階段を降りてきて、小さな騒ぎを引き起こした。

「高橋仙は山本正博と一緒になるのか、それとも木村勝一と一緒になるのか、予想してみましょう」

「同じ人じゃないの?」

「もちろん違うわ。子供の姓が山本になるか木村になるか、それは大きな違いよ」

「誰と結婚するにしても、私は高橋仙の友達になりたいわ。'W'組織の若手リーダーよ。彼女の友達になれば、一生面倒を見てもらえるのよ。高木阿波子も彼女と親友になったって聞いたわ。高木財源も今でも彼女の顔色を伺っているらしいわ」

「高橋仙がそんなに凄いなんて。高木財源も彼女を恐れているなんて」

……

池村琴子は白いシンプルなワンピースを着て、髪を緩くまとめ、耳元には数本の髪が垂れていた。肌は白磁のように白く、目は霞んだように美しく、ほとんど気付かないほどの薄化粧をしていたが、それが彼女の艶やかな雰囲気を引き立てていた。

彼女の隣の山本正博は、カジュアルな服装で、眉目は凛として、輪郭は深く、シンプルな服装でも彼の周りの強い存在感は隠せなかった。

二人が現れると、会場は自然と静かになった。

南條夜は静かに目を上げ、池村琴子に視線を向けた後、ゆっくりと目を伏せた。

池村琴子は南條夜の前に並んだ空き瓶を見て、表情が少し硬くなった。

「南條夜、用事があるので先に失礼します」

彼女はこれ以上ここにいると、明日のメディアの話題が収拾つかなくなることを恐れた。

「送っていくよ」彼女が帰ると言うのを聞いて、南條夜は体を支えて立ち上がろうとし、傍らの山口念が急いで彼を支えた。

「結構です。ゆっくり休んでください」池村琴子は彼の申し出をきっぱりと断った。

南條夜は優しく微笑んだ。彼の五官は元々優美で、灯りの下ではさらに柔和に見え、よく見ると少し高慢な気品さえ感じられた。

池村琴子は気にしていないと言ったが、彼は自分を責めていた。

演技が本気になってしまったことも、自分のものではない手柄を横取りして誤解を招いたことも、後悔していた。

鈴木正男の命の恩人が山本正博だと知った後、後悔が虫のように彼の心を蝕んでいた。