第327章 本気なの

池村琴子は彼が近づいてくるのを見て、表情を変えなかった。

むしろ高木阿波子は、高橋進のこの様子を見て、驚きの表情を浮かべた。

この高橋進...本当にうまく演技しているな...

やはり、人は面子のためなら何でもできるものだ。一度面子を捨ててしまえば、人としての尊厳も捨て、馬鹿を演じることも厭わない。

真相を知らなければ、光町一の富豪高橋家の社長が病気を装っているなんて、誰が想像できただろうか。

「娘よ、娘よ~」高橋進は池村琴子の前に来て、笑顔で「お母さんはどこ?どこにいるの?」と尋ねた。

死を覚悟で迫った末、ようやくボディーガードに鈴木家まで連れて来させた。

鈴木羽の「不倫」に対して、彼は怒りを爆発させることができない。なぜなら今の彼は「認知症患者」なのだから。

しかし彼は絶好の方法を思いついた。鈴木羽と二人きりで本当のことを話し、誤解を解くことだ。