東京中央高級住宅街、南條家。
屋内の空気は重く沈んでいた。
前回の誕生日パーティー以来、南條家の使用人たちは戦々恐々と歩き回り、南條さんは外出を控え、家で花を育て、外からの誘いを一切断っていた。
セレブ夫人たちの間では、南條さんが面目を失い、外出できなくなったことは周知の事実だった。
そして南條夜は、仕事以外の時間のほとんどを自室に閉じこもって過ごしていた。
そんな時、一台の黒い高級車が南條家の邸宅の前に停まった。
山口念はサングラスをかけ、毛布のような大きなコートを纏って、足早に邸宅に入った。
南條夜は庭園で一人酒を飲んでおり、目の前には空き瓶が散乱していた。
黒いダウンジャケットを着ていた彼は、暑さを感じたのか首元を引っ張り、鎖骨と白い肌が大きく露わになった。
山口念は玄関で立ち止まり、彼から目を離さずに見つめていた。
南條夜が前回このように荒れていたのは数年前、ずっと探し求めていた人を見つけたものの、その人が離婚していたことを知った時だった。
その時も今のように、たくさんの酒を前にして苦しんでいた。
彼はアルコールに耐性があり、酒を水のように飲める、いわゆる千杯不倒だった。
彼女が来たことを察したかのように、南條夜は目を上げ、手招きをした。「おいで、念、一緒に飲もう」
山口念は彼の前に歩み寄り、隣に座って黙って酒瓶を開け、彼に差し出した。
「私は飲めないわ。夜にトップクラスの投資家と会う予定があるから、飲み過ぎて失敗するわけにはいかないの」山口念は軽く言い、いつものように彼と酒を共にすることはなかった。
南條夜は酒を持つ手を止め、少し驚いた様子で彼女を見た。「急に仕事熱心になったな」
以前なら、彼女は何も考えずに付き合って飲んでいただろうし、仕事を言い訳にすることもなかっただろう。
「今から真剣に取り組むことにしたの」
以前は男性に夢中だったけど、今は自分のことを考える時だった。
松田柔子の件も彼女に気付かせてくれた。芸能界で確固たる地位を築くまでは、人に踏みつけられる立場なのだと。
今回は高橋仙が助けてくれたけど、次はどうなる?
結局は自分で何とかするしかない。
冷静に酒を飲む南條夜を見て、山口念は眉をひそめた。「飲み過ぎよ」