この時の松田柔子も途方に暮れていた。
彼女はあの男があれほど気骨があり、大金を目の前にしても心を動かされないとは思わなかった。
さらに、木村勝一が彼女がその男を買収しようとしているところを見ていたとは。
木村勝一の冷たい視線に会い、松田柔子は無理に笑みを浮かべた。「木村さん、私は…」
「彼女を陥れようとしたのか?」
「いいえ、違います…」松田柔子は慌てて手を振った。「彼女を陥れようとしたわけではなく、ただ…ただ…」
しばらく話しても、松田柔子は言葉を見つけられなかった。
確かに彼女は池村琴子の試合を阻止しようとしていた。
しかし木村勝一の前では、突然言葉に詰まってしまった。
山本正博の薄い唇が鋭い弧を描き、濃い睫毛が漆黒の瞳に影を落とし、冷酷な眼差しは松田柔子の体を震わせた。