高橋家のもう一人が姓を変えようとしていた。忠一の性格からして彼らの暴走に付き合うことはないだろうが、長年膝元で育っていない娘のことは信用できなかった。
特に今日の大会で、仙が「池村」という名前で出場したことは。
これは何を意味するのか?
「高橋」という姓を認めるつもりがないということだ。
彼女の心の中では、育ての恩が生みの恩より常に大きいのだ。
彼のこの要求が出されると、部屋の中は一瞬静まり返った。
「ふん……」
高橋謙一の冷笑が沈黙を破った。
「なるほど、結局はその下らない姓のためか」高橋謙一は不遜な態度で立ち、高橋進を横目で見ながら、傲慢な表情で言った。「仙は好きな姓を名乗ればいい。この会社も、やるならやれば、いらないなら持って行けばいい!」
「謙一」高橋敬一が高橋謙一の言葉を遮り、低い声で諭した。「今は兄さんが会社を経営しているんだ」
「それがどうした?兄さんは俺と同じ考えだ。お前みたいに外に味方するわけじゃない」高橋謙一の言葉に高橋敬一は顔を青ざめさせた。
高橋忠一は笑いながら何も言わず、沈黙で同意を示した。
高橋進は自分の息子がこれほど頑固だとは思わなかった。
しかしそれは池村琴子に姓を変えさせようという彼の考えをより一層強固なものにした。
以前は高橋姓を名乗りたくないというのもまあ良しとしていたが、今や彼女は「W」組織のメンバーで、その組織を代表して大会に出場できるということは、彼女がその組織の中核メンバーであることは間違いない。
このような娘を、以前は軽蔑していたが、今は恐れている。
恐れれば恐れるほど、取り込まなければならない。
池村琴子が名前を変えてこそ、安心して高橋家を譲ることができる。
「忠一、お前も私の気持ちは分かるだろう。それに君も……」彼は山本正博の前に歩み寄り、低い声で警告した。「時間があったら彼女を説得してくれ。感情的になりすぎないように。女一人では苦労するだけだ……」
「高橋社長」山本正博は作り笑いを浮かべながら彼の言葉を遮った。「私は高橋謙一と同じ考えです。彼女が姓を変えようと変えまいと、私は彼女を尊重します。それは私の彼女への気持ちにも影響しません。だから説得なんてことは、もう言わないでください」
「なぜなら、私は説得しませんし、私がいる限り、彼女が苦労することもありません」