この言葉を聞いて、高橋敬一は表情を変えなかったが、指が縮んで、複雑な感情を漏らしてしまった。
姉帰のチケットがどこから来たのか彼にも分からなかったが、チケットを買うお金は確実に彼が渡したものだった。
彼が所有する法律事務所は何軒もあり、どの事務所も月収は六桁で、チケット二枚くらい簡単に買える金額だった。
「彼らの席は私と葉子が前に買った席なんです。まさか私たちのチケットが売られて、ダフ屋を通じて彼女と伯父に売られるなんて」鈴木鈴は驚きの表情で言った。「私が知る限り、当時私たちが売った時点で倍額になっていて、ダフ屋に渡ったらさらに何倍になったか分からないのに、高橋姉帰のカードは凍結されていたはずでしょう?彼女はどこからチケットを買うお金を?」
鈴木鈴の疑わしげな言葉に、高橋敬一の顔が少し強張った。
姉帰を東京大学に密かに入学させた件はもう隠せなくなっていたが、もし高橋家の他の人々に自分が姉帰にお金を渡していたことが知られたら……
高橋敬一は顔が火照るのを感じ、最後列を見る勇気すらなかった。
父の病気は既に周知の事実となっているのに、なぜ高橋姉帰が父をここに連れてきたのか理解できなかった。
認知症の人が、どうして勝手に出歩けるのだろうか?
高橋姉帰がこうするのは、他の人々に高橋グループの前社長は実は病気ではなく、これまで演技をしていただけだと伝えたいからに他ならない。
高橋の言う通り、姉帰はこうすることで足を引っ張っているのだ。
妹の足を引っ張るだけでなく、高橋家全体の足も引っ張っている。
高橋忠一は何気なく後ろの席に向かって歩き始めたが、記者たちに気づかれてしまった。
「高橋家の長男だ!」
「後ろに何しに行くんだ?」
記者たちのカメラが彼の方に向けられた。
高橋忠一の足が止まった。
今や記者たちに気づかれてしまった以上、父の方へは行けない。
高橋進と高橋姉帰はこの異変に気付かず、ステージに集中していた。
隣の葉子は前の席で落ち着かない様子の人々を見て、そして隣の高橋姉帰と高橋進を見て、鋭い眼差しを向けた。
そのとき、背の高い男性が高橋進の側に歩み寄った。
高橋進はその男性を見て、驚きの表情を浮かべ、立ち上がった。
「お父さん!」高橋姉帰は急いで高橋進を呼び止めた。「お父さん、どこに行くの?もうすぐ結果が出るのに……」