松田柔子の顔色が青くなったり白くなったりするのを見て、長年生きてきた木村爺さんは、何が起こったのかうっすらと察した。
「どうした?向こうの人が承知しないのか?」
松田柔子は下唇を噛みしめ、軽く首を振った。「相手が音信不通になってしまいました。以前は試合会場で会うと約束していたのに、突然連絡が取れなくなってしまって。」
それどころか、電話さえも通じなくなった。松田柔子は木村爺さんに、相手にブロックされた可能性があることを告げる勇気がなかった。
「もう少し待ってみよう。この大会の主催者が以前私に言っていたが、'W'組織の代表が参加するそうだ。もし連絡が取れないなら、直接彼らの選手を探せばいい。」
松田柔子は頷いた。「それしかないですね。」
相手の選手を探すのは格が下がるように見えるかもしれないが、これも仕方のない方法だった。
唐伯虎の絵は数千万円の価値があり、もし相手が横取りするつもりなら、彼らは不利な立場に立たされることになる。
この出来事を経て、松田柔子は目が覚めたようだった。
彼女の頼みの綱は既に亡くなった木村利男だけだったが、もし相手が認めなければ、木村利男の遺書も遺言も何の意味もない。
組織のトップが交代したという話も、根も葉もない話だった。
そう考えると、松田柔子は背筋が寒くなった。
結局のところ、木村家と松田家のやっていることは全て賭けだった。現在の「W」組織のリーダーの人格に賭けているのだ。
この賭けは負ける可能性が高い。相手が連絡を絶ってきたことからも、彼らを相手にしていないことは明らかだった。
「身分を明かしてしまったのか?」木村爺さんの顔のしわがより深くなった。
彼はもう長くない。唯一の望みは、息子が外に残した遺産を取り戻すことだった。
あの組織は利男が設立したものだ。取り戻さなければ、死んで地獄に落ちても利男に申し訳が立たない。
「たぶん大丈夫です。」松田柔子は落ち込んだ様子で言った。「その点は十分注意して、誰にも漏らしていません……」
そう言いながら、松田柔子は突然ある人物のことを思い出した。
高橋仙!
そうだ、高橋仙にこの組織のことを話した後、相手が音信不通になったのだ。
もしかして高橋仙が情報を漏らしたのだろうか?
でも横山紫はこの組織の人間ではないと言っていたはずだが?