第357章 彼女を責めないで

「山本正博!」

彼がドアを出ようとした瞬間、池村琴子は不安そうに薄い布団を握りしめ、慌てて言った。「さっき気を失っていて、あなたの電話に出られなかったの。わざとドタキャンしたわけじゃないわ」

「ああ」

山本正博は他に何も言わず、ただ淡々と「ああ」と一言だけ返し、振り返ることもなく立ち去った。

池村琴子は目を伏せ、胸が締め付けられるような思いだった。

どう説明すればいいのかわからなかったが、山本正博が不満を感じているのは確かだった。

近籐正明は壁に寄りかかり、手に煙草を挟んでいた。山本正博が出てくるのを見て、煙草を軽く弾きながら言った。「彼女を責めないでください。携帯の電源を切ったのは私です」

「彼女は採血したばかりで体も弱っていたので、ゆっくり休ませるためにマナーモードにしたんです」

山本正博は冷たい視線を投げかけた。その一瞥だけで、近籐正明は眉間にしわを寄せた。

この山本正博、こんなに嫉妬深いのか?

近籐正明は池村琴子のためにもう少し言いたかったが、その一瞥で言葉が喉に詰まってしまった。

今は話すべき時ではないと感じた。余計なことを言えば言うほど、状況は悪化するだけだ。

そうであれば、黙っているのが賢明だろう。

山本正博が去った後、近籐正明は急いで部屋に入った。「何を話したんだ?なぜあんなに怒っているんだ?」

「何も話してない、説明すべきことは説明したわ」池村琴子は額に手を当て、体の弱さを感じながらベッドに寄りかかって目を閉じた。

山本正博のこの無言の去り方が、かえって彼女を不安にさせた。

山本正博が怒っているのは分かっていたが、彼女は既に説明したのだ。これ以上何を望んでいるのだろう?

もし本当に不満があるなら、それを口に出せばいい。なぜ皆の前で不機嫌な顔を見せる必要があるのか。

以前読んだ言葉を思い出した。良い恋愛は相互的で、正直であるべきだ。

そして彼女は、十分に正直だった。

おそらく採血したばかりで体が疲れていることもあり、気持ちも重く感じた。

最も弱っているときこそ誰かの存在が必要なのに、山本正博はこうして何も言わずに立ち去り、彼女の自信も奪っていった。

そのとき、鈴木正男から電話がかかってきた。

池村琴子は急いでスピーカーフォンにした。「もしもし、おじさん」