「山本正博!」
彼がドアを出ようとした瞬間、池村琴子は不安そうに薄い布団を握りしめ、慌てて言った。「さっき気を失っていて、あなたの電話に出られなかったの。わざとドタキャンしたわけじゃないわ」
「ああ」
山本正博は他に何も言わず、ただ淡々と「ああ」と一言だけ返し、振り返ることもなく立ち去った。
池村琴子は目を伏せ、胸が締め付けられるような思いだった。
どう説明すればいいのかわからなかったが、山本正博が不満を感じているのは確かだった。
近籐正明は壁に寄りかかり、手に煙草を挟んでいた。山本正博が出てくるのを見て、煙草を軽く弾きながら言った。「彼女を責めないでください。携帯の電源を切ったのは私です」
「彼女は採血したばかりで体も弱っていたので、ゆっくり休ませるためにマナーモードにしたんです」