警察署で、山本正博は署長に来意を説明し、話し合いの後、松田柔子はようやく保釈された。
山本正博を見た松田柔子は、目が真っ赤になった。
彼女は多くの悪事を働いてきたが、今回は本当に冤罪だった。
高橋仙を刺激したことは認める。
でも、彼女を押したことは絶対にない。
この南條夜は、明らかに意図的に彼女に敵対し、完全な私怨だった。
「誠治様、南條夜が私が高橋仙を押したと言い張るんです。妊婦なんて、避けるのが精一杯なのに、どうして押すなんてことをするでしょうか。自殺行為ですよ、そんなこと」松田柔子は豆をこぼすように一気に不満を吐き出した。
他人に誤解されても構わないが、誠治様に誤解されるのは絶対に避けたかった。
山本正博の足が一瞬止まり、松田柔子の心臓が激しく跳ねた。
山本正博は振り返り、冷ややかに彼女を一瞥した。「本当に何もしていないのか?」
松田柔子は心虚ろに目を逸らした。「もちろんです。私はバカじゃありません。誰を触るにしても、なぜ妊婦を選ぶでしょうか」
たとえ何かをしたとしても、絶対に認めるわけにはいかない。
高橋仙の子供が無事かどうかも分からない状況で、もしこの罪を認めたら、利根川で身を洗っても濡れ衣は晴れない。
「あなたの言う山崎三郎は、'W'組織でどんな地位なんだ?」山本正博が尋ねた。
松田柔子は心が躍り、急いで答えた。「ナンバー2です。トップの次です」
「それに、彼も木村伯父の弟子の一人で、木村伯父の遺言も知っています。あなたがその地位を望むなら、彼があなたを就かせると言っています」
彼女が山崎三郎と知り合ったのは横山紫の紹介だった。
偶然にも、この山崎三郎は横山紫の元上司だった。
木村伯父が亡くなった後、遺言も意味がないと思っていたが、組織のトップ以外の幹部も認めているとは思わなかった。
山崎三郎の助けがあれば、この組織はいずれ木村勝一のものになる。
「誠治様、ついにこの組織を引き継ぐことを決心されたんですね?」
彼女は覚えている、木村勝一は以前この組織に全く興味を示さなかったことを。
彼女が最も恐れていたのは、組織を手に入れられないことではなく、木村勝一がこの組織に興味を持たないことだった。
彼女は木村勝一の能力を信じている。彼が望めば、この組織を簡単に奪い返せるはずだ。