上田従雲は資料を持つ手を止め、鋭い眼差しで携帯電話を一瞥してから、電話に出た。
「はい。」
「前回の大統領スイートの者ですが...」竹内雅子は自分の身分を明かすのが恥ずかしく、また明かす勇気もなかった。
彼女にできるのは、このような部屋に泊まれる人は裕福か身分の高い人に違いなく、お金に困っていないはずだと推測することだけだった。しかし、相手の素性がわからない以上、多くを明かすのは危険だった。
彼女が電話をかけたのは、相手の身分を知りたかったからだ。
もし相手が高橋進より力のある人なら、高橋進と駆け引きする必要もなく、最悪この男性と一緒になればいい。
本人には会ったことはないが、気軽に百万円の小切手を出せる人なら、きっと条件も悪くないはずだ。
たとえ相手が既婚者でも、外で子供を産んで養ってもらうのも構わない。