池村琴子に注意されて、近籐正明と山本正博も周りの人々が彼らを見ていることに気づいた。
いくつかのことは既に公になっており、お互いに人々の噂を恐れてはいなかったが、このように見られるのは誰にとっても居心地が悪かった。
山本正博と近籐正明は目を合わせ、二人は暗黙の了解で2階へと向かった。
二人が上階に上がると、上階にいたスターたちは次々と自分の部屋に戻っていった。
個室で、近籐正明と山本正博は向かい合って座った。
「お互い忙しいので、率直に言わせてもらいます」近籐正明は社長椅子に寄りかかり、指でテーブルを軽く叩いた。「'W'を諦めてください。以前はあなたの父親がいた時は引き継げたかもしれませんが、今はこの組織はあなたのものではありません。無理に争っても恥をかくだけです。早めに諦めた方がいいでしょう」
山本正博は眉を上げ、軽く口角を上げた。「社長様のご忠告、ありがとうございます」
近籐正明の目が光り、手のひらが軽く締まった。
その「社長様」という言葉で、既に彼の身分が明らかになっていた。
「諦めてくれれば、こちらはどんな条件でも受け入れます」近籐正明は深く息を吸い、表情を落ち着かせた。
琴子の気持ちを考えなければ、このように山本正博に頭を下げて話すことはなかっただろう。
もし山本正博が'W'を争うなら、必ず琴子には勝てないが、確実に彼女の心を傷つけることになる。
共倒れの状況は、琴子も、彼も見たくなかった。
「どんな条件でも?」山本正博は口角を上げて笑った。「彼女も含めて?」
近籐正明は眉をひそめ、黙り込んだ。
「もし君が彼女を諦めるなら、考えてもいい」
「諦めるとは?」近籐正明は不吉な予感を感じた。
「君が考えている通りだ」山本正博は目を細め、探るような目で見た。
近籐正明は一瞬固まり、明るい大きな目の輝きが曇った。
琴子から離れる?
彼は彼女から離れることを考えたことはあったが、その「離れる」とは別の立場で彼女の側にいることだった。
山本正博の言う意味は、永遠に琴子から離れろということだった。
心臓を刺すような痛みが胸から広がり、近籐正明は目を伏せ、手のひらが微かに震えた。
「私が彼女から離れれば、あなたは'W'を諦める?」近籐正明は目を上げ、目の光が暗くなった。「諦めてくれるなら、その条件を受け入れます」