第459章 彼は私を嫌わない

高橋敬一はその言葉に言葉を失った。

高橋姉帰の涙を思い出し、高橋敬一はため息をついた。「それでも、彼女にそんな仕事を与えるべきではなかった。彼女の足が...」

「彼女には断る権利がありました」池村琴子は容赦なく彼の言葉を遮った。「入社する前に、彼女には断る選択肢がありました。私は彼女を強制していません」

高橋敬一は黙り込んだ。

彼は池村琴子の言葉が正しいことを認めざるを得なかった。

姉帰はその時断ることができたはずだ。しかし彼女は断らなかっただけでなく、彼の法律事務所に行くことも拒否した。

さっき高橋姉帰は泣きながら、会社の人々が一週間分のゴミを彼女に片付けさせたと不満を漏らしていたが、今考えると、それは単に姉帰が仕事をしたくない言い訳だったのかもしれない。

「君が彼女に不満を持っているのは分かる」高橋敬一はため息をついた。「いい、この件は私が解決する」

そう言って一旦言葉を切り、さらに付け加えた。「仕事を紹介してくれてありがとう」

「礼には及びません。善意が仇で返される経験は、もう二度としませんから」

そう言って、池村琴子は電話を切った。

通話終了音を聞きながら、高橋敬一の心は重く沈んだ。

池村琴子の彼に対する態度は、これまで一度も良好だったことはない。

しかし以前のように怒りを感じる代わりに、最近は随分と落ち着いていた。

おそらく池村琴子が彼に「面子」を立てて姉帰を「W」に入社させてくれたからか、あるいは突然、姉帰が少し欲張りすぎているように感じ始めたからだろう。

以前は、彼はいつも高橋姉帰を何かと許容していたが、最近では少し力不足を感じていた。

姉帰を一時的に助けることはできても、一生助け続けることができるだろうか?

「リンリンリン」携帯電話のビデオ通話の着信音が鳴り、発信者を見て高橋敬一は眉をしかめた。

「もしもし...」

彼はビデオ通話に応答した。

画面の中で、高橋姉帰は目が腫れ上がり、息も絶え絶えに泣いていた。「お兄さん...お兄さん...」

声は途切れ途切れで、明らかに相当な苦悩を抱えているようだった。

「どうしたんだ?」高橋敬一は心が沈んだ。「今どこにいる?」

「お姉さんと山本正博さんの別荘にいるの」