そのとき、ベッドの上の張本の叔父さんが突然うめき声を上げ、長い息を吐き出すと、顔色が良くなり、呼吸も落ち着いてきた。
「おじいちゃん、早く良くなってね。お母さんが心配してるって。良くなったら、東が天ぷらを食べに連れて行ってあげるからね」東は笑顔で張本の叔父さんの側に寄り、布団を掛け直してあげた。そして、病床に腕をついて、張本の叔父さんの額に手を当てた。
高橋あきらは顔を曇らせた。「ここは病院だ。劇場じゃない。そんな芝居がかった演技は誰に見せているんだ!ここは病院だぞ、良くなると言って良くなる場所じゃない。早く退いてくれ、全身検査をしなければならない」
看護師は震えながら張本の叔父さんに繋がれた機器の側に行き、チェックしながら驚きの表情を浮かべた。「先生...先生!早く見てください!彼の、彼の血液指標が正常になっています!白血球の異常も3分の1も改善されています...」
目をこすりながら、看護師は自分の目を疑った。ただ数回針を刺しただけで、白血病の老人の命が救えるなんて?
もしかして目の前の女性は聖母マリアの生まれ変わりなのだろうか?
高橋あきらは全く信じられず、近寄って行った。顔色は最悪だった。加藤恋が何者なのかは分からないが、彼はこの患者を何ヶ月も担当してきて、あらゆる治療法を試してきたのに、まったく改善が見られなかった。まさか、専門家である自分が加藤恋のような平凡な女性にも及ばないというのか?
彼女は本当に神様から遣わされた、病気を治し人々を救うことができる存在なのか?もしそうだとすれば、自分は詐欺師の女にも劣るということになるではないか?
高橋あきらの表情は非常に険しく、深い自己嫌悪に陥っていた。
一瞬にして、彼の医師としての何年もの誇りと天才の称号が、加藤恋に踏みにじられたかのようだった!
「そんなはずがない!機器を再起動しろ。きっと機械が固まっているんだ。このデータは全部嘘だ。そうでなければ、突然現れた人間が、どうしてこんな風に治せるはずがある?」
高橋あきらは周りを見回した。こんな奇妙なことがあるはずがない、きっと加藤恋が何か細工をしたに違いない。彼女の正体を暴かなければならない!
この老人は福田家の人間だ。彼はずっと治療に成功して出世の機会を得ることを期待していた。