204 一つのキス

スマートフォンの画面が点滅し続け、唐沢行は加藤恋に早く練習場に戻るよう催促していた。特別な方法で外出できたとしても、他の選手たちが不満に思わないとは限らない。

福田隼人が自分の手を握っているのを見て、加藤恋は何か言おうとしたが、この静かで穏やかな光景を壊したくなかった。

外の月明かりは雪のように明るく、車の窓を通して福田隼人の顔に落ちていた。彼との距離がこんなに近いのは初めてで、目を閉じれば隣からの呼吸音が鮮明に聞こえた。

もしかしたら、二人の心もこうして段々近づいているのかもしれない?

加藤恋はそう考えながら、唐沢行にメッセージを送った。4時には必ず戻ると。そして不思議と携帯を置くと、福田隼人の隣で眠りに落ちてしまった。

どれくらい時間が経ったのか、福田隼人は痛みで目を覚まし、横を向くと加藤恋の顔が目に入った。RCが彼女を専属モデルにした理由が分かる気がした。白玉のような頬には寝起きの紅潮が浮かび、ふんわりとした眉は、SNSインフルエンサーたちが作り出す不自然な美しさとは違って自然だった。潤んだ桜色の唇は熟したサクランボのよう。彼女が何を夢見ているのか、無意識に唇を軽く噛む仕草に、福田隼人は思わず妄想を掻き立てられた。