「ふん、この世界は弱肉強食よ。あなたみたいな聖人ぶった人がいい目を見るとでも思ってるの?メイクと衣装が合ってないからステージから追い出されるのを待ってなさいよ。『望花』どころか、その場で曲を作ったとしても、誰も見向きもしないわよ」
野木早香の得意げな様子を見て、東根瑞希は本当に腹が立った。加藤恋が止めていなければ、きっと飛びかかって相手の口を引き裂いていただろう。
しかし加藤恋も今は反論できなかった。準備していたのが『女王の冠』で、メイクと衣装にも心血を注いでいたのだから。もうこうなってしまった以上、何か方法を考えなければならない。野木早香の言葉がかえってヒントになった。
「弱肉強食って何かを見せてあげましょうか」そう言って加藤恋は脇に座り、紙とペンを取った。
彼女は輝かしく美しい女王で、宮廷舞踏会で最も輝く宝石だった。しかし、その誇りは国が滅びる瞬間に崩れ去り、もう誰も彼女とダンスを踊ろうとはしなかった……
「かつて被った王冠は虚しい火薬、私の心を生きたまま切り裂いた……黄金の下には国王の首、そこにいる人々すべてを疑い、彼女は羊飼いの少女となって黄金の森へと向かった……」
心揺さぶる音楽が、その場にいる人々の目を引きつけた。スタッフの何人かもカメラを彼女に向けようとしていた。
これは彼女が作った曲なのか?
野木早香の表情が一変した。どうしてこんなに成熟したメロディーが?彼女はダメ人間のはずじゃ?
そうだ、歌詞を変えれば衣装の説明ができる。楽譜を手に取り、加藤恋は素早く書き始めた。前回作詞作曲したのがいつだったか忘れそうだった。この曲は小さい頃に母に見せて、二人で何度も直したものだった。
加藤恋はピアノを弾きながら、真剣に楽譜を書いていた。横で野木早香が彼女を見つめているのにまったく気付いていなかった。
「次の出演者、入場してください——」
「夏川さん、あなたも準備を……」
耳に呼び出しの声が響く中、加藤恋は最後の音符を書き終えると、興奮して立ち上がった。王冠喪失版『女王の冠』が完成した。
「すごい!本当にすごいわ!きっと高得点がもらえるわ!」
「ふん、いい考えじゃない」野木早香はすでにドレスに着替えていた。加藤恋は自分の前の出演者が彼女だとは思っていなかった。