加藤恋は向井栞ならそういう可能性があると思っていましたが、この世の中にそんな人がいるとは信じたくありませんでした。ただ夫婦の価値観が合わないというだけで、自分の妻に不倫のスキャンダルを仕掛け、その後それを利用されて向井栞のいじめスキャンダルまで流され、そして向井家が何故か突然向井栞を見捨てたことで、彼女の母は数十年も逃げ回る生活を強いられたのです。
「だから今回のオーディションは絶対に全力を尽くします。特にこれを持っているんですから」加藤恋は楽譜の中から数枚の紙を取り出し、両山健に渡しました。二人はそれを見て、喜色を浮かべました。
両山健は当時を思い出しました。最初は自分もシンガーとしてデビューしたかったのに、何度も壁にぶつかり、さらには自分の作品を盗作されたこともありました!
そのため両山健はその夢を諦め、舞台デザイナーとしての道を歩むことにしました。
「ここに電子音を入れて、このベースラインで...」
加藤恋は両山健とこんなにも息が合うとは思いませんでした。おそらく、二人とも母親が先生だったからこそ、母の残した楽譜を修正する際にこれほど息が合うのかもしれません。
加藤恋が突然このような事を暴露したため、秋山花は仕方なく遊川前子の助けを求めることになりました。
「ははは、信じられない!本当に信じられない!高杉のやつ、今回の反応が面白いわね。あの小娘の注目を逸らすために、自ら出てきて情報を封鎖するなんて」遊川前子は手元の資料を見ながら言いました。「私の経験からすると、この加藤恋の背後にはきっと、もっと掘り下げる価値のある情報があるはずよ」
秋山花は憎々しい表情を浮かべました。「その通りです。深く掘り下げれば、彼女の背後にはきっと私たちにとって価値のあるものがあるはずです。なぜ彼女は私たちの前にこうして現れたのでしょう!なぜ高杉の姓を名乗らないのか、彼女が私の周りに現れたのは、本当に歌って踊って映画に出たいだけだと思いますか?」
この時の秋山花は顔面蒼白で、遊川前子の話を聞く余裕もありませんでした。加藤恋は一体何者なのか、芸能界で何年も音沙汰がなかったのに、突然現れて、しかも背後の勢力も全く探れない。