332 新しい『望花』

この時、加藤恋は曲の創作に没頭していて、どれだけの人が彼女に対抗しようとしているのか全く知らなかった。

竜川尚は躊躇なく準備室のドアを開けた。「最近ゴシップが多いのは知っているが、今一番大事なのは公演の準備だ。このままでは一人一人がリハーサルをステージでやることになるぞ。早く選曲カードをしっかり書いて、順位順に私に提出しろ。」

温井詩花は竜川尚に向かって舌を出し、その後選曲を提出した。最後の加藤恋が選曲を提出した時、竜川尚の表情が突然とても奇妙になった。

選曲カードには「望花」という二文字がはっきりと書かれていた!

加藤恋は向井栞が残した遺書を読み、録音を聞いて以来、これから何をすべきかを確信していた。トップ3に入れるかどうかに関係なく、母の声をより多くの人に聞いてもらいたかった。

「面白い、本当に面白いな」竜川尚は温井詩花と夏川晴海を呼び寄せた。「二人とも見てみろ、選曲が被っている。変更するか?お前たち二人は全く違うタイプなのに、なぜ同じ曲を選んだんだ?番組の観賞性のために、選曲は少し違いがある方がいい。誰が曲を変えるか、二人で相談してみろ。」

「相談する必要があるの?夏川さんはいつも高潔だから、最後の投票で心を打つために、きっと私にチャンスを譲ってくれるわよね!」

温井詩花は夏川晴海の方を振り向いて見た。彼女は少し不機嫌そうだった。自分の高尚な趣味が、夏川晴海と被ってしまったのだから。

他の競技なら夏川晴海はそうするかもしれないが、今回は...この選曲は高木勝が彼女のために選んだもので、コントラストを見せるためだった。今譲ってしまえば、高木勝は自分を軽視していると思うだろう。

「今回はダメよ~私の選曲はこの曲でなければならないの。どうして鹿川が変えないの?」夏川晴海は首を振り、態度は非常に断固としていた。

「だってこの曲のメロディーは華麗でかっこよくて、高度なテクニックも必要だから、明らかに私に合っているでしょ!」温井詩花は得意げに顎を上げ、自分の言い分に非常に自信があるようだった。

「私も曲は変えないわ。理解してくれることを願うわ。」クライアントの機嫌を取ることの方が重要になった今、夏川晴海はこのタイミングで曲を変えるほど愚かではなかった。