322 竜川五郎の寝返り

加藤恋は福田元が指差した方向を見ると、そこにビデオカメラを持った人物がいることにすぐ気付いた。その人物はずっと暗闇に潜んでいたため、加藤恋は少し油断していたのだ。

「頭が回るようになったのね」加藤恋は元の優しげな表情に戻し、DVを持った人物に向かって歩き出した。

「私たち家族の問題なので、本来なら皆さんを巻き込みたくなかったのですが、あなたたちが福田元を助けようとするので仕方がありません。カメラを私に渡していただけませんか?今日のことはもう追及したくないので」

加藤恋が一歩一歩近づいてくるのを見て、その若者は明らかに固まってしまった。

突然、竜川五郎が飛び出してきて、カメラのレンズを一発で砕いた。ガラスの割れる音が響き、竜川五郎は加藤恋と正面から向き合った。

家族のために、加藤恋は福田家との決別も辞さず、福田家の若奥様という身分も捨て、贅沢な暮らしも諦める覚悟だった。そんな彼女は福田元よりもずっと正気だった。