加藤恋は福田元が指差した方向を見ると、そこにビデオカメラを持った人物がいることにすぐ気付いた。その人物はずっと暗闇に潜んでいたため、加藤恋は少し油断していたのだ。
「頭が回るようになったのね」加藤恋は元の優しげな表情に戻し、DVを持った人物に向かって歩き出した。
「私たち家族の問題なので、本来なら皆さんを巻き込みたくなかったのですが、あなたたちが福田元を助けようとするので仕方がありません。カメラを私に渡していただけませんか?今日のことはもう追及したくないので」
加藤恋が一歩一歩近づいてくるのを見て、その若者は明らかに固まってしまった。
突然、竜川五郎が飛び出してきて、カメラのレンズを一発で砕いた。ガラスの割れる音が響き、竜川五郎は加藤恋と正面から向き合った。
家族のために、加藤恋は福田家との決別も辞さず、福田家の若奥様という身分も捨て、贅沢な暮らしも諦める覚悟だった。そんな彼女は福田元よりもずっと正気だった。
この光景に他の人々は呆然と立ち尽くし、竜川五郎が何をしようとしているのか分からなかった。
「てめえ...そのカメラがいくらするか分かってんのか?お前の一ヶ月分の給料くらいするんだぞ。お前なんか何様のつもりだ?」
加藤恋も竜川五郎をじっと見つめた。彼のこの行動は完全に福田家の顔に泥を塗るものであり、福田家を完全に敵に回すことになる。
福田元が連れてきた人々は皆、竜川五郎を尊重していた。彼らは竜川五郎が何をしているのか分からなかったが、この行動に少し溜飲が下がる思いがした。
そしてこの時、竜川五郎は大胆な決断を下した。福田家を離れれば、あの是非から遠ざかれるのではないか。それに福田隼人様が既に公式声明を出しており、その意味は明らかに彼らの家族と福田家とは今後一切関係を持たないということだった。
「竜川五郎、お前死にたいのか?」福田元は自分の思い通りになると思っていたのに、途中でこんな奴が出てくるとは思わなかった。「お前の息子のことを忘れたのか?福田家がなければ、どうやって私立幼稚園に通えると思う?」