338 共感の欠如

「なんてすごい熱気なの!私まで感動しちゃう!」

「温井詩花は本当に転んじゃったの?痛そう……」

「本当にプロフェッショナルね。最初は高橋綾子のパフォーマンスが良いと思ってたけど、やっぱりプロの歌手は違うわ。それに今見てたら、温井詩花は映画にも向いてると思う。」

観客席は温井詩花の感動的なパフォーマンスに影響され、次々と立ち上がり、最後のフレーズを一緒に大声で歌い出した。

お母さん、見てる?私は自分で答えを見つけられるの。自分の人生の扉を開いて、どんな歌手になりたいのか、自分で選べるの。

ステージ中央で一脚の椅子がゆっくりと上昇する。鉄の玉座をモチーフにしたデザインだ。

「誰も、誰も経験したことのない道。私は自分の道を歩んでいるだけ……」

「詩花!詩花!」

「かっこよすぎ!お姉さん大好き!」

「お姉さんが私の胸に銃を撃ち込んで、思いっきり撃ち込んで。」

二番手の出演なのに、圧倒的な存在感で会場を支配した。さすが温井詩花だ。葉野言葉は深く息を吸い込んだ。次は自分の番だ。

番組制作側は、コンテストも終盤に差し掛かり、より公平性を保つため、投票を番組の最後に設定した。当初は審査員に投票権はないとされていたが、今では一人三票ずつ、自分が支持する出場者に投票できるようになった。彼らの判断と選択は間違いなく観客の投票動向に影響を与えるはずだ!

「素晴らしいパフォーマンスでした。私も思わず熱くなってしまいました。これまで見た中で最高の状態だったと言えますね」白井景は温井詩花に賛辞を送った。

続いて秋山花が発言を始めた。「あなたの実力は申し分ありません。自分の得意分野で最適な曲を選び、長所を最大限に活かしています。あなたは生まれながらのスター、万人の注目を集めることができる。その自信は素晴らしいと思います」

「その通りです。自分の能力とスタイルに対する信念を持ち続けてください。素晴らしい歌手になれるでしょう」両山健はステージ上の温井詩花を見つめながら、加藤恋の強敵になるだろうと考えた。

ずっと黙っていた竜川尚は、全員が発言し終わってから口を開いた。「歌とダンスに関しては、他の審査員の意見に同意します。でも、皆があなたの技術面だけを褒めていることに気付いていませんか?」