しかし考えた末、唐沢行は口を開かなかった。秋山心と彼との以前の関係を確認できていない状況で、加藤恋にどう切り出せばいいのかわからなかったのだ。
「この男は国際指名手配犯で、東京のヤクザと接触があります。最近の任務で重傷を負ったようで、この期間は日常の出費を賄うための小さな仕事しか受けていないようです」唐沢行は加藤恋が密かに撮影した写真を手に取り、その男のことを徹底的に調査していた。
齋藤武史はこの言葉を聞いて顔色が変わった。あの男だったのか。噂には聞いていたが実物は見たことがなかった。世界中を逃げ回り、多くの命を奪ってきた男だ。今回怪我をしていなければ、おそらく彼らは逃げ切れなかっただろう。
そんな強者が、自分と加藤恋の手に敗れるとは。それに加藤恋は...きっとこれだけではないはずだ。彼女の銃の構えは自分とほとんど変わらない。齋藤武史には信じがたかった。
一度見ただけで射程と精度をあれほどの誤差で制御できるなんて、元々の実力か、それとも彼女の学習能力が異常に高いのか。しかしそんなことがあり得るのか?もしそうなら、加藤恋は少し練習すれば関東地方で彼らを凌駕することになるのではないか?
加藤恋は手元の資料に目を通しながら、齋藤武史の方を見て、先ほど恍惚とした表情で出て行った秋山心のことを思い出し、「今回、秋山心の従兄による殺人依頼は失敗に終わりましたが、私たちの会社から秋山心にボディーガードを付けるのが最善です。そうすれば万が一に備えられます」と言った。
看護師と一緒に戻ってきた秋山心は、そんな会話を耳にして、複雑な感情を目に宿らせながら加藤恋を見つめ、呼吸を整えようと努めながら小声で言った。「お義姉さん、すぐに適当なボディーガードは見つからないと思います」
秋山心の心は揺れていた。まず、自分を殺そうとした人物が実の従兄だと知り、そして自分がずっと探していた人が兄の妻だったことを知った。
このような衝撃は彼を茫然とさせ、突然の寂しさが秋山心を非常に無力な気持ちにさせた。