しかし考えた末、唐沢行は口を開かなかった。秋山心と彼との以前の関係を確認できていない状況で、加藤恋にどう切り出せばいいのかわからなかったのだ。
「この男は国際指名手配犯で、東京のヤクザと接触があります。最近の任務で重傷を負ったようで、この期間は日常の出費を賄うための小さな仕事しか受けていないようです」唐沢行は加藤恋が密かに撮影した写真を手に取り、その男のことを徹底的に調査していた。
齋藤武史はこの言葉を聞いて顔色が変わった。あの男だったのか。噂には聞いていたが実物は見たことがなかった。世界中を逃げ回り、多くの命を奪ってきた男だ。今回怪我をしていなければ、おそらく彼らは逃げ切れなかっただろう。
そんな強者が、自分と加藤恋の手に敗れるとは。それに加藤恋は...きっとこれだけではないはずだ。彼女の銃の構えは自分とほとんど変わらない。齋藤武史には信じがたかった。