631 彼に助けを求める

仁田泰は首席薬剤師であり、高橋家の多くの薬剤師は実際に彼の弟子であることを考えると、彼が苦心して研究した処方箋を手放すのは当然嫌がるだろう。そう考えると仁田泰の表情は一瞬にして険しくなったが、中間康は大喜びした。

「ご安心ください。もしお力添えいただけるなら、あなたは私たちの恩人です!ただ、社長と処方箋の件については、もう少しご検討いただければ……」

ドアの外に立っていた宮本莉里は顔色が青ざめていた。もし彼女がもう少し強ければ、こんな時に足を引っ張ることもなく、部下もこんなに卑屈に他人に頭を下げることもなかっただろう。

加藤恋は軽くため息をつき、このような特殊な状況では川島芹那に助けを求めるしかなかった。

「お義姉さん、お兄さんはもうあなたがどこに行ったのか気になってるわよ?スパに川島社長と行ってるって言っておいたから、帰ってきたら絶対にばれないようにしてね!」携帯に表示された秋山心のメッセージを見て、加藤恋は思わずため息をついた。

秋山心の方は既に対処できているのだから、彼女も恥をかくわけにはいかない。結局は会社に関わることなので、何としても解決しなければならない。

「宮本莉里に出てきて話をするように言ったはずだが、お前たちにこんな取引を話す資格はない」高橋勇人は冷笑いながら言った。スイートルームのドアが開いており、加藤恋と宮本莉里が立っているのに全く気付いていなかった。

高橋勇人にとって宮本莉里は実際それほど手ごわい相手ではなかった。誰もが知っているように宮本莉里はまもなく田中家の若旦那と結婚するはずで、そうなれば彼女には海外の事業を管理する時間なんてないだろう。宮本莉里が結婚すれば、セイソウリキの海外市場部門は必ず混乱するはずだ。そうなったら、彼がノバルティスを買収する絶好のチャンスとなる!

「すぐに社長に確認してまいります」この時の中間康は実は内心確信が持てていなかった。何度も電話をかけたが、誰も出なかったのだ。

実は高橋勇人は宮本莉里の境遇を知っていたが、ノバルティスを早く手に入れるためにその情報を隠していただけだった。

港町では、田中家や高橋家が誰かを音もなく消し去ることなど、どれほど簡単なことか?