石田静は井野忠が手に取ってまた置いた携帯電話を一瞥し、トイレに行くと言い訳して、真っ暗な壁を手探りしながら階段を上った。クリスタル別館は見た目は綺麗だが、実際には長年完成していなかった。彼女が刑務所にいた何年もの間、この建物の照明はまだ修理されておらず、古い建物の構造をそのまま保持し、監視カメラも設置されていなかった。
実は以前からこの階段を上るたびに、とても怖かった。階段の通路は真っ暗で、手すりはぐらぐらし、階段は狭くて急だったからだ。
壁を手探りで進むことはできたが、以前壁面に付着していた汚れを見たことがあり……自分の手で触れることを考えると、吐き気を催すようだった。
しかし今はこのような環境でしか安心感を得られなかった。背中は冷や汗でびっしょりだったが、これから行うことを考えると、気を引き締めて準備をせざるを得なかった。