586 深井須澄が入院

思いがけず加藤恋は直接口を開いた。「福田隼人がこの件に関係ないことを証明する直接的な証拠があります。」

「無断で侵入して探した証拠を、なぜ信じなければならないのですか?」温井康彦は腕を組んで冷たく言い、加藤恋が今提示した証拠は彼女自身が仕掛けたものかもしれないという含みがあった。

「遺体の解剖を拒否したのは石田家の人々の要求だったのですか?」加藤恋は淡々と尋ねた。

温井康彦は深いため息をつき、「それは石田家の要求です。私たちでも勝手に介入することはできません。それで、何を発見したのですか?」

温井詩花は加藤恋と温井康彦のやり取りを見ながら、顔に意味深な笑みを浮かべた。普段はこんなに話が通じる兄ではないのに。福田家は加藤恋のことをずっと快く思っていないようだし、もし福田隼人と加藤恋が離婚したら...ここまで考えて温井詩花は急に興奮してきた。二十八年間独身を通してきた兄がついに恋を知るかもしれない!

加藤恋は少し考えてから、自分の発見を温井康彦に説明することにした。「石田海香は転落死ではありません。誰かに口と鼻を塞がれて窒息死したのです。」

「解剖したのか?」温井康彦は少し驚いた様子だった。

「法医学者とは違って、私は必ずしも解剖しなくても死因がわかります。だから、現場にはもう一人いた可能性が高いと推測しています。」

三人は話しながら温井康彦のオフィスに向かい、加藤恋は鍵を取り出して温井康彦に投げた。

「今日は賑やかですね。このお二人は?」三人が話す前に、年配の警察官が入ってきた。

「師匠!」温井康彦は自分の師を見て、目に敬意を満たしながら言った。「こちらは妹の温井詩花です。そしてこちらは福田隼人の妻です。」

「容疑者の家族ですか?ご安心ください、旦那様は殺人を犯してはいないはずです。騒ぎが収まって、より多くの証拠が揃えば、すぐに釈放されます。」中村航は加藤恋を真剣な表情で見ながら説明した。「他の事件も抱えているので、後で彼女たちを見送ってやってくれ。」

そう言って中村航は急いで現場を去った。加藤恋にはこの初対面が永遠の別れになるとは知る由もなかった。

「今回限りですよ。次にこんなことがあれば、そう簡単には済みませんからね。」温井康彦は加藤恋の話を聞いて、ある程度理解していたが、立場上、彼らに勝手な行動を取らないよう警告せざるを得なかった。