「今は安全な場所にいても、次の瞬間には危険地帯にいるかもしれない」
この言葉を聞いて、彼の部下の警察官たちは平然としていたが、伊藤哲の部下の警察官たちは、表情が曇った。
彼らは帝都で事件を担当していて、比較的安全な環境にいたため、このような事件に遭遇したことがなかった。
また、彼らは軍人出身ではなく、野外生存の経験もないため、この流砂に対して本能的な恐怖を感じていた。
「行くぞ、日が暮れる前にここを離れよう」小池紀之は冷たい口調で命令を下し、一同は躊躇なく重い荷物を背負って前進を続けた。
隣で鈴木月瑠がまだ棒付きキャンディーを舐めているのを見て、小池紀之はため息をつきながら言った。「中村楽がここを無事に通過できるかどうか心配だ」
小池紀之のため息を聞いた伊藤哲は、複雑な心境になった。
この道中、何度も考えを巡らせていた。
鈴木月瑠の瞳が一瞬沈み、まぶたを少し持ち上げ、かすれた声で淡々と言った。「私は彼女を信じている」
小池紀之は何も言わなかった。
一方、伊藤哲の気持ちはそれほど軽くなく、目に砂埃が入ったような感覚で、部下たちを見て言った。「みんな警戒を怠るな、公務中の殉職だけは避けたいものだ」
「了解しました!」
全員が口を揃えて応じたが、多かれ少なかれ落ち込んでいる様子だった。
中村桑の先導のもと、途中で危険な目に遭遇することもあったが、全員無事に乗り越えることができた。
この区域を無事に通過したのは夜の10時で、彼らは一時的に安全な河原の端に到着した。
ここには人工的に掘られた場所があり、穴の中には水源があった。小池紀之は水を掬って顔を洗い、冷たい水が感覚を刺激した。
付近は風の音しか聞こえないほど静かだった。
伊藤哲は中村桑の隣に座り、タバコを差し出しながら、ライターの音と共に声を上げた。「これからどうやって人を探すんだ?」
不必要な荷物を減らすため、彼らは来る時にあまり乾パンを持ってこなかった。
乾パンがなくなったら、人探しどころか、餓死を待つだけだ。
しかも、この河原は果てしなく続いており、伊藤哲はこのまま探し続けても意味がないと感じていた。
中村桑は深くタバコを吸い込み、重い口調で一言吐き出した。「待つ」
鈴木月瑠は頬杖をついてタバコを吸いながら、その言葉を聞いても何の反応も示さなかった。