第325章 君が惜しい

男の声は低く響き、彼は鈴木月瑠の目を見つめ、その眼差しは溺れそうなほど優しかった。

その瞳の奥には、溶けきれない愛情が宿り、静かで優しい声で言った。「どのくらい行くのか、教えてくれないか」

鈴木月瑠は答えた。「短ければ2、3日、長くて1週間よ」

帝都から札幌市まで最短でも4時間かかり、まず札幌市の警察と合流してから、バガンに向かわなければならない。

運が良ければ、3日で戻れるはずだ。

一橋貴明は骨ばった指を伸ばし、鈴木月瑠の手を握った。「月瑠、無事に帰ってきてね。待ってるから」

鈴木月瑠は「……」

なんだか生死を分かつような別れの感じがする。

彼女は眉間をゆるめ、一橋貴明の指に絡めながら言った。「心配しないで、私は喧嘩が強いから」

一橋貴明は「……」

天然な鈴木月瑠の話し方に慣れていた彼は、もう何も言わず、ただ彼女の小さな手をしっかりと握った。

一橋貴明の手は少し冷たく、鈴木月瑠の手は温かかった。彼は顔を上げて彼女を見つめ、鳳眼に輝く笑みを浮かべた。「月瑠、行く前に、抱きしめてもいい？」

その声は懇願するような調子で、鈴木月瑠の心臓が小さく震えた。少し躊躇した後、一橋貴明を抱きしめた。

柔らかく良い香りのする彼女に抱きしめられ、一橋貴明は尻尾が天まで届きそうなほど嬉しかった。彼は優しく、そっと、大切な女の子を抱きしめた。

「私がいない間、ちゃんと自分の面倒を見てね。小池紀之には頼んであるから、何かあったら彼に言って。何かあったら私に電話してね」

彼女の側にいられなくても、密かに護衛を付けておくつもりだが、それでも心配で、しっかりと言い聞かせたかった。

一橋貴明は鈴木月瑠をきつく抱きしめ、骨の髄まで溶け込ませたいほどだった。

「どうしても心配なら、札幌市行きの切符を買えばいいじゃない」

鈴木月瑠は困惑した様子で「ちょっとした用事を済ませに行くだけよ。帰らないわけじゃないのに、なんで遺言みたいなこと言うの？」

彼女は一橋貴明を押しのけ、無関心そうな目つきで言った。「私は喧嘩が強いの。何を心配してるの？」

「君が強いのは知ってる。でも、帰ってきた時に怪我してるのは見たくないんだ」

一橋貴明は鈴木月瑠を胸に引き寄せ、顎を彼女の頭に乗せ、低く掠れた声で言った。「君が傷つくのを見るのは耐えられないんだ。分かる？」