中村楽の隣にいた警官が追跡装置を持ち、突然重々しい声で言った。「もう位置を追跡できなくなりました!」
つまり、斉田あきひろはすでにバガン奥地に到着したということだ。
二台のパトカーはまだ前進を続け、約百キロ走ったところで、ようやく停車した。
もう正午で、黄砂が舞い、周りは小さな丘ばかりだった。彼女は口を固く閉じ、砂が入らないようにしていた。
砂漠のような場所では、たとえ人が入っても、すぐに足跡は黄砂に覆われてしまう。
「なぜまったく役に立たなくなったんだ?」西治呂は追跡装置を受け取って見つめ、表情は深刻で、眉をひそめていた。
斉田あきひろが乗って行ったパトカーの位置追跡システムが突然消えていることに気付いた。
しかし、これは常識に反している。これは警察専用の位置追跡システムだ。砂漠では電波の状態は不安定だが、位置情報が完全に消えることはないはずだ。
「誰かが位置情報を遮断している可能性はありませんか?」中村楽は軽い口調で言ったが、その一言で皆の背筋が凍った。
一人の警官が西武司に注意を促した。「もう先には進めません。」
たとえバガン奥地に今は凶悪犯がいなくても、孤狼や狼の群れがいる可能性があり、彼らには対処できないだろう。
西武司は中村楽の方を見るしかなかった。
中村楽は腕を組み、指先で肘を軽く叩きながら、少し引き締まった口元に冷酷さが滲んでいた。
西武司が何か言おうとした時、中村楽がゆっくりと言った。「あなたたちは先に戻って、後ろの車を私に任せて。」
「何だって?」
西武司は一瞬驚いた。「まさか一人で入るつもりじゃないだろうな?」
彼は中村楽が来た時に荷物を持ってきていたことを思い出した。さっき車に乗る時、彼女はその荷物をトランクに入れていた。
つまり、中村楽は最初から戻るつもりはなかったということだ!
「ええ。」中村楽は頷き、細めた鳳眼に冷たい光が走った。
西武司が何か言う前に、助手席の警官が怒り出した。「死にに行くのは勝手だが、私たちと一緒に来たからには、一緒に戻らなければならない!」
ただでさえ斉田あきひろが勝手に出て行ったことで中村桑は頭を悩ませているのに、中村楽が戻らなければ、東京本局から圧力がかかって大変なことになる。