第330章 必ず彼女を連れ戻す!

伊藤哲は体を翻して立ち上がり、風の吹いてくる方向に向かって、横の砂丘へと走っていった。

小池紀之と鈴木月瑠が後を追った。

そこに着くと、伊藤哲が砂丘から一人の男を引きずり出すのが見えた。彼は罵声を浴びせた。「斉田あきひろ、この野郎!」

中村桑は急に安堵のため息をついた。

一同が懐中電灯を向けると、ようやくその場所が明るくなった。

砂丘の後ろに斉田あきひろと西治呂が隠れているのが見えた。斉田あきひろからは汗の臭いが漂い、西治呂は怪我をしていた!

中村桑は急いで西治呂の怪我を確認し、銃創だと分かると、くそったれと罵った。

しかし幸い応急処置がされており、西治呂は衰弱しているものの、命に別状はなかった。

中村桑たちが来たのを見て、西治呂は興奮して中村桑の腕を掴み、弱々しく言った。「隊長、早く...早く...」

鈴木月瑠は周りを見回しても人影が見えず、口角を下げながら、辛抱強く尋ねた。「中村楽は?」

中村桑は斉田あきひろと西治呂を見つけたからには、中村楽もいるはずだと思っていたが、見回しても彼女の姿は見えなかった。

鈴木月瑠の声を聞いて、斉田あきひろは顔を覆って泣き出した。

斉田あきひろの反応を見て、伊藤哲は察した。

「この馬鹿野郎!」

伊藤哲は激怒し、斉田あきひろに拳を叩き込んだ。

格闘の心得がある者同士、この一撃で斉田あきひろの口角から血が流れ出た。

鈴木月瑠は伊藤哲を引き離し、斉田あきひろを引っ張り上げ、息が詰まるような冷たい声で言った。「言え、中村楽はどこだ!」

鈴木月瑠の恐ろしい視線に、斉田あきひろはようやく我に返り、震える声で話し始めた。「追っ手に遭って、楽姉は俺たちを逃がすために...自分で奴らを引き付けて...」

言い終わる前に、鈴木月瑠は斉田あきひろを脇に投げ捨てた。彼女はその場に立ち、細めた目に殺気が満ちていた。

しばらくして、彼女が軽く嘲笑うような声を出した。

周りの者たちは誰も口を開く勇気がなかった。

伊藤哲は急いで斉田あきひろに尋ねた。「中村楽はどっちに行った?」

「あっちです。」

斉田あきひろは真っ暗な前方を指差した。

伊藤哲は心が凍る思いだった。我に返って、さらに尋ねた。「誰に追われているか分かるか?」

斉田あきひろは泣き出しながら答えた。「月瑠を連れ去った連中です!」

「あいつらか?」