一橋しんていが歩いてくるのを見て、皆は急いで立ち上がって笑顔で言った。「三男若様がいらっしゃいました。」
一橋家のしきたりでは、太夫人の三人の息子は若様と呼ばれ、一橋貴明や一橋景肴たちは、若様と呼ばれていた。
一橋しんていは鋭い目つきで皆を見渡し、何も言わなかった。
彼は鈴木月瑠の前に歩み寄り、目を細めて笑った。「月瑠」
鈴木月瑠は背筋を伸ばし、以前のような気の抜けた様子ではなくなり、声を出して呼びかけた。「一橋おじさん」
「いい子だ」
一橋しんていは鈴木月瑠が大好きで、笑いながら尋ねた。「どうして一橋家に来たのに、私に会いに来なかったの?」
「もう行きます。私たちは先に失礼します」一橋貴明はかなり不機嫌そうに口を開いた。
「何を馬鹿なことを言っているんだ!」
一橋しんていは息子を見ると腹が立ち、彼を睨みつけた後、鈴木月瑠に向かって笑顔で言った。「お前だけ帰ればいい。月瑠は残って食事をしていきなさい」
一橋貴明の表情には依然として不機嫌さが残り、冷たい目つきで言った。「これは一橋家の家族の食事会です。部外者が来るのは適切ではありません」
鈴木月瑠はずっと黙っていたが、表情は冷たく、眉間には少し不機嫌さが見えた。
一橋しんていは鈴木月瑠の表情を見て、皆に向かって言った。「どうしたんだ?」
彼の鋭い視線と、周りに漂う重圧感のある雰囲気。
一橋英史だけが笑顔を作って言った。「何でもありません。考えすぎですよ」
一橋しんていは一橋英史を見て、淡々とした口調で皆に言った。「太夫人もまだ生きているし、私もまだ生きている。どうした?もう待ちきれないのか?」
「何を言うべきで、何を言うべきでないか、お前たちが口を出す番か?」
一橋家の当主の座は一橋貴明に譲られたが、三男家は太夫人が最も重視し、家の中で最も発言力を持っていた。
彼の声は軽いものの、圧迫感は十分だった。
鈴木月瑠に話しかけようと振り向いた時、太夫人の方から人が来て、一橋貴明の方へ直行した。
弓永ママは恭しい態度で言った。「七男の若様、太夫人が鈴木月瑠さんがいらっしゃったことを知り、鈴木月瑠さんを連れて来るようにとのことです」
一橋貴明は頷き、鈴木月瑠の手を取って太夫人の居所へ向かった。