その言葉を聞いて、黒川嶺はゆっくりと笑い、また尋ねた。「物は受け取ったようだが、栗本放治の病気を治せる自信はあるのか?」
鈴木月瑠は美しい眉を寄せ、少し邪気と軽蔑を漂わせながら答えた。「それはあなたには関係ないでしょう」
「お前には心に留める人が少ないのに、私が気にかけることもダメなのか?」黒川嶺の口調は楽しげに聞こえた。
鈴木月瑠はソファの肘掛けに腕をついて、無関心そうに言った。「それなら直接教えてよ。栗本放治の病気は、誰が仕組んだの?」
「物理研究所のあの連中か?」
最初、鈴木月瑠は黒川嶺のやり方だと思っていたが、後になって考えると、当時の栗本放治はまだ二十歳だった。
黒川嶺がそこまで策を練る価値はなかったはずだ。
「そうだとしてどうする?違うとしてどうする?」
黒川嶺は遠慮なく笑いながら言った。「お前はもうデルタを離れたんだ。まさか一人の男のために戻ってきて復讐するつもりか?」
少し間を置いて、また笑って言った。「もちろん、お前が戻ってくる気があるなら、あの老いぼれどもなど大したことはない」
鈴木月瑠は淡々と言った。「手伝うかどうかは、私の気分次第よ」
黒川嶺は意地悪く笑った。「それならなぜ一橋貴明を選んだんだ?栗本放治のことを大切にしていたんじゃないのか?」
鈴木月瑠は微笑み、その目元に邪気が漂った。「私が誰を選ぼうと、あなたには関係ないでしょう。余計な口出しはしないで」
そう言って電話を切ろうとした時、黒川嶺が言った。「戻ってこないのなら、医学院の物に未練を持つべきではない」
鈴木月瑠は物憂げに目を伏せ、ゆっくりと言った。「私が研究したものよ。使用権さえないっていうの?」
黒川嶺は淡々とした口調で言った。「お前が研究したものだが、2号試薬はデルタ研究所の所有物だ」
鈴木月瑠は「ふーん」と返した。
「月瑠、他意はない。ただ分かってほしいだけだ」
黒川嶺は鈴木月瑠の冷淡さを気にせず、独り言のように続けた。「お前がデルタの人間である限り、一生デルタから逃れることはできない」
鈴木月瑠は無関心そうに言った。「ふーん、あなたが満足ならいいわ。どうせ私はあなたに借りがあるし」