デルタ研究所には四大家門があるものの、黒川家が主導権を握っていた。黒川家当主には血縁の後継者がおらず、たった一人の継承者しかいないと聞いている。
当時、黒川若旦那がデルタを去った時、多くの勢力がデルタを虎視眈々と狙っていた。
しかし、デルタの情報管理が厳重で、それらの勢力は正確な情報を得られず、軽々しく動くことができなかった。
その後、デルタはその情報を隠蔽し、すべてが平穏になった。
誰も実際の状況を知らなかった。
月瑠が先ほど言ったことで……
白石思曼は五十年の人生で初めて、指が震え、唇が震えるほどの衝撃を受けた。
鈴木太夫人も我に返ったようで、興奮して一気に駆け寄ってきた。「やっぱり私の孫娘は並の人間じゃないわ!」
「あなた、本当に私を失望させなかったわ!」
そう言って、太夫人はテーブルを叩き、ほとんど叫ぶような声を上げた。
黒川若旦那!
彼女の月瑠が黒川若旦那で、デルタの未来の継承者だったのだ!
白石思曼は太夫人の叫び声で我に返り、感情を整えて深呼吸をした。
しかし突然、何か重大なことを思い出したようだった。
彼女は鈴木月瑠の方を向き、心配そうな表情を浮かべた。「でも月瑠、デルタと日本の関係、それにあなたが黒川若旦那だなんて……」
様子を見るに、黒川家当主は鈴木月瑠をとても大切にしているようだった。
もし知ったら、月瑠を連れ戻しに来るのではないだろうか?
「大丈夫よ、国も知っているわ」
鈴木月瑠は淡々と言った。「私がデルタに行くのは国の承認を得ているの。彼らが私を連れ戻そうとしても、国の許可が必要よ」
彼女はメッセージを返信し、顔を上げて言った。「でも、おばあちゃん、さっきまで私を殺すって言ってたじゃない?」
鈴木太夫人は顔を赤らめ、何も言えなかった。
鈴木月瑠はさらに追い打ちをかけた。「私を殺したら、寂しくならない?」
太夫人は口角を引きつらせ、ますます言葉が出なくなった。
鈴木月瑠は一橋貴明にメッセージを返信し、顎で太夫人の方を示した。「今は私を殺したくなくなったでしょう?じゃあ、私は行くわ」
鈴木太夫人:「……」
なんてことを!
家を出ると、鈴木月瑠は近くに停まっているベントレーを見た。
後を追ってきた白石思曼も鈴木月瑠を見守りながら、そのベントレーに気付いた。