玄関の外に出ると、鈴木月瑠は一橋貴明の手を離した。
一橋貴明は一瞬驚いて「どうしたの?」
鈴木月瑠は無表情で「トイレ」
一橋貴明「……」
鈴木月瑠は女子トイレに行き、携帯を取り出して医学会議室に入室すると、斎藤閔たちがオンラインで繋がっていた。
斎藤閔がグループにファイルを送信した「月瑠姉、今送ったレポートを見てもらえますか?結果がどうしても合わなくて、どこが問題なのかわからないんです」
鈴木月瑠はファイルを開いてすぐに確認した「レポートに問題はありません。一つ検査項目が抜けているせいでグラフが合っていないだけです」
斎藤閔「……」
なんてこった!
半年も研究して結果が出なかったのは、一つのデータが抜けていたからなの???
針の大村はずっとレポートを分析していたが、それを聞いて思わず尋ねた「月瑠姉、グラフを見ただけで問題がわかったんですか?」
「うん」
鈴木月瑠は画像に二つ丸を付けて、グループに再送信した「印を付けたので、確認してください」
グループのメンバーは急いでダウンロードした。鈴木月瑠が指摘しなければ、そこに問題があるとは気付かなかっただろう。
「悲惨だ」
高橋様が発言した「この五種類の物質を抽出するのは大変な苦労でした。研究中も不安定で、私たちの責任ではありません」
グループには六人の重鎮がいて、それぞれのチームに五十人のメンバーがいた。
三百人のチームが半年かけて実験を繰り返してきたのに、結果は……
なんと一つの検査項目が抜けていたとは!
鈴木月瑠は数秒沈黙した後、開口した「大丈夫です。池田滝をチームに加えますので、もう一度やり直してください」
一同「……」
これら五種類の物質は抽出が難しく、通常は他の物質を加えると反応を起こしてしまい、それが不利な状況を生む。
そのため、全員が繰り返し研究を重ね、この反応を中和するか、あるいは最小限に抑える方法を探っていた。
予算が常に不足していた。
上からの度重なる予算配分と、鈴木月瑠の頻繁な資金提供があってこそ、プロジェクトは今日まで続けられた。
斎藤閔は申し訳なさそうに言った「月瑠姉、予算が足りないんです……」
鈴木月瑠「わかりました」